四国には有名な狸が三匹います。一宮神社に祀られている小女郎狸と壬生川の喜左右衛門狸、屋島の禿狸が三兄妹として、伊予狸族の名門で、小女郎狸は昔から一番楠に棲んで地域の人達に親しまれています。
その小女郎狸の妹でお六狸というのが、同じ一番楠に棲んでいました。 このお六狸は丁度開拓の始まった新田地区に、毎晩毎晩いそいそと訪ねていったといわれています。 そしてお六狸さんは、ある晩新田を訪ねてある裕福な家の前まで来ると、そこでくるりと一回転したかと思うと、かわいらしい小僧に化け、すたすたと門をくぐって、屋敷の隅にある若宮さんをお祭りしている祠の前にくると、お供えをしている徳利に入ったお酒と、饅頭を畳一畳はあるとおもわれる狸の玉袋の中に入れ、急いで一宮神社の一番楠の樹へ向かっていそいそ帰っていきました。 そこには小女郎狸が今か今かと待っていました。 お六狸は誇らしげに持ち帰ったお供えを、小女郎狸に差し出しました。 こうして毎晩、毎晩 新田地区の若宮さんのお供え物を取りに来ていました。 此の様子を見ていた家の主は、ああ今日もお六狸さんがきてくれてありがたいことだ、手を合わせて拝んでいました。 これはまだ開拓間もない新田地区では、作物が充分に取れず人手も足りず、狸さんの力を借りていたからです。 新田地区の人達が安心して暮らせるためにも、大切なことで地域のみんなで大事に扱いました。 こうして代々この習わしは、子供から孫へと受け継がれ、明治の終わり頃迄伝えられました。 若宮のふるさと誌 より |