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生子山城のまわりを、うんかの如き小早川隆景の大軍が取り囲み満を持している。東の西谷川・西の芦谷川の水源を極め、城中、水がないのを確認し、わが大軍を前にわずか二〇〇の城兵がいかに対応するかを見守っている。 ところがである。烈々たる晴天のもと、山上二の丸付近に一頭のウマが曳き出された。小早川の将兵は何をするのだろうと見ていると、二、三人の小者が姿を見せ、木桶に水を汲んで、ウマを洗い始めた。 「あっ。」 びっくりした小早川軍は瞳をこらしたが、ウマを洗う仕草は間断なく続けられた。 すぐ水源の確認が行われ、物理的に城中に多量の水が無いのが確認された。 「あれは何か。」 小早川軍は判断に迷った。攻撃をかければ二、三日で落城するであろうが、それよりもわが戦略的判断の不確実さが悔やまれるのである。 その時、城の下で、一人の老婆を小早川軍はつかまえた。老婆はその場へ引き据えられた。その時、小早川軍にひらめくものがあり、 「あれは何か?」 山上を指差した。問いただす足軽頭の右手には一条の利剣、左手にはひとつかみの小銭が鳴った。 「あれは、あれはお米を流しております。」 老婆はあえぎながら城を見上げた。 「ふうん。」 拍子抜けした足軽頭が鼻を鳴らした。 「放してやれ。」 小早川隆景は仁慈の武将であり、無益の殺生はしない。山上では米を流すしぐさをやめないので、すぐ攻撃がかけられ、しばらくして落城した。 老婆のその後の消息は誰も知らない。 |
城主神社山根公園から国領川を少し下った所に「しろぬし橋」という橋が架かっている。しろぬし橋の近くに城主神社がある。ここで祀られている城主とは、天正の陣で討死した生子山城主松木三河守安村のことである。 城主神社の中に、生子山城主松木三河守安村公之碑が建てられている。 松木三河守の碑は、西条の野々市原古戦場にある千人塚の横にも建てられている。 |