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Ky-1237

 複合音階(3)    Pentatonic Scale in Non-Equal Temperament

村山先生、2005年2月に開発した新しい非平均律五音音階(NET-5)を使って、新しい実験作品を制作しました。その実験結果についてご報告致します。以下の報告では、Uは新しい複合音階を示します。Vはその黒鍵部分の五音音階を指します。そして、必要な場合にWは白鍵部分の純正律系音階を意味します。従って、U=V+Wという方程式が成り立ちます。また、Uのように0を付したものは、平均律音階を指しています。1〜4のように数字を付したものはそれぞれの非平均律音階を意味しています。U1からU4の各音階の特長についてはこの論文の後半でご報告致します。各実験音階の音名と平均律音階からの偏移値は次表の通りです。数字の単位は何れもセントです。

音名

U0

U1

U2

U3

U4

C

+0

+0

+0

+0

+0

B

+0

-12

-12

-12

-12

Bb

+0

+13

−13

+43

-43

A

+0

-16

-16

-16

-16

Ab

+0

-13

+13

-45

+45

G

+0

+2

+2

+2

+2

Gb

+0

-13

+13

-43

+43

F

+0

-13

+13

-29

+29

E

+0

-14

-14

-14

-14

Eb

+0

+13

−13

+37

-37

D

+0

+4

+4

+4

+4

Db

+0

-13

+13

-43

+33

C

+0

+0

+0

+0

+0

平均律音階

非平均律音階

非平均律音階

非平均律音階

非平均律音階

U0

U1

U2

U3

U4

基音

Gb

Gb

Gb

Eb

Gb

準音

Eb

Eb

Eb

Gb

Eb

共音

Ab

Ab

Ab

Ab

Ab

ピンク色は黒鍵、青色は白鍵

単位はセント

また、各音階での音程は以下の表の通りになります。U1とU3は長調的な音階であり、U2とU4は短調的な音階と言うことが出来ます。Eb-Db間の長短およびBb-Ab間の長短によって音階の特性が変わって来ることが実証されました。しかし、その反動によりGb-Eb間およびDb-Bb間は長短が正反対になっています。これはオクターブが1200セントと一定なので止むを得ないことでもあります。

音程

U0

U1

U2

U3

U4

Db-Bb

300

274

226

214

376

Bb-Ab

200

226

174

288

112

Ab-Gb

200

200

200

198

202

Gb-Eb

300

274

326

220

380

Gb-F

100

100

100

86

104

F-Eb

200

174

226

134

276

Eb-Db

200

226

174

280

130

全音程

1200

1200

1200

1200

1200

今回の改訂の主要点は、既にご報告致しました通り、平均律音階Uから偏移値の小さい13系と大きい43系のニ系統に分類したことと、同じ13系と43系の中でも短調系と長調系のニ系統に分類したことであります。実際にはU1は13系の長調系であり、U2は13系の短調系に分類されます。また、U3は43系の長調系、U4は43系の短調系に分類されます。これらのU1〜U4の非平均律系複合音階の幾つかを使用して、新しい実験作品の作曲を始めることになります。今回の実験作品NET-5050211は最初ですから、U1〜U4の全ての音階の特性を確認する為に4種類の全音階を使って制作されました。新しい実験作品NET-5050211を聴いての実験結果の概要は以下の通りであります。
U4実験音階: この音階では改訂前には50セントの偏移値を採用していましたが、チューナーの誤動作を避ける為に45セント未満の偏移値を採用して、GbとBbでは43セント、Abでは45セントの偏移値を当てました。また、Ebには37セントを当て、Dbには33セントを当てています。そして、F音には29セントを配しています。その結果、短調系の表現がやや安定して、縦揺れ現象もすこし減少したと感じられます。これは50セントという4分音丁度の偏移値が、他の音と共鳴しやすい為にうなりが起こり易くなっていたとも考えられます。僅かに5〜7セント狭めただけでうなりが減少したのではないかと考えられます。しかし、うなりが減った事と和声がより美しくなった事とは同じではありません。坂崎紀先生が発表しておられます様に、うなりの有無と和声の美しさとは別問題なのであります。50セント系の時に比べて、今回の43セント系のU4音階は遥かに聞き易くはなっています。短調系を特長づけるEb-Db間が130セントであり、Bb-Ab間が112セントになっていますが、短調系の表現力は保持できています。最も難しいのがDbの偏移値であります。+0から45セントの範囲で実験を繰り返して、やっと33セントに落ち着きましたが、実験値であるため変更も有り得ます。
U3実験音階: U4実験音階と同じ理由で、新しいU3実験音階も聞き易くはなっています。長調系を特長づけるEb-Db間は280セントであり、Bb-Ab間は288セントでありますから、長調系の表現力は十分に保たれました。GbとBbでは43セント、Abでは45セントの偏移値を採用していますが、U4実験音階とは符号が正反対になっています。U4音階に続いてこのU3音階を聴くと、長調系の明るい印象が鮮明に表現されるのを感じ取ることが出来ます。特にNET-5050211作品の冒頭の牧歌的なテーマの始まりは、U4音階での再現の後に聴くと、U3音階では鮮やかに明るく響いて来ますね。この様にU4音階とU3音階は短調系と長調系間の変調に相互に乗り入れることが出来るものと考えています。但し、短調系と長調系の変調での変化は大きいので、すこし抑制した変調の場合には次のU2音階とU1音階を使用することになります。
U2実験音階: U2実験音階では、GbとBbでは13セント、AbとDbでも13セントの偏移値が採用されています。また、F音には13セントを配しています。その結果、Eb-Db間は174セント、Bb-Ab間も174セントにやや拡げられています。その為にU4音階に比べて短調系の表現がやや控え目になって来ます。すこし沈んだ感情表現をする時に使用できる音階であると認識しています。U3音階からU2音階に変調されると、感情の微妙に抑制的な表現が可能ではないかと考えます。U4音階との使い分けがこれからの課題にもなるでしょう。
U1実験音階: U1実験音階では、同じくGbとBbでは13セント、AbとDbでも13セントの偏移値が採用されていますが、符号はU2音階とは正反対になっています。その結果、Eb-Db間は226セント、Bb-Ab間も226セントにやや狭められています。その為にU3音階に比べて長調系の表現がやや控え目に感じられます。それ故にすこし明るい感情表現に使える音階であると考えます。U4音階からU1音階に変調されると、感情の微妙に開放的な表現が可能になると考えています。U3音階との使い分けを研究して行く必要があります。
実験音階の和声効果: これらの新しい実験音階による和声は、今までに聴いたことのない和声効果が体験されます。それは新鮮な驚きであると同時に、未体験の音空間へと聴くものを誘います。恰も無限の宇宙空間を旅する夢の様な世界であります。僅か2音か3音の和声であるのに、深みのある美しい和声が期せずして生まれます。その響きに静かに耳を傾けていると、唐の時代の雅楽の世界にタイムスリップしたのではないかと錯覚を覚える程であります。先日、中国のラジオで五弦の古箏を弾く人間国宝級の名人の演奏を聴きましたが、そのVirtuosoの演奏はテンポは緩やかに絶妙のポルタメントで響いていました。今回の改訂による四つの実験音階はその妙なる盛唐の音にも通じる細い道筋を発見できたかも知れないと密かに考えています。しかし、まだ実験音階なので音の組み合わせによっては、刺激的な和声も現れることがあります。和声に関する感覚は東西では異なる様でありますね。通奏高音として鳴り響くあの笙の可変重和音を東洋では妙なる美しい和声と感じるのに、西欧では地獄から響く和声に聞こえるとか言います。この100年以上も西欧音楽を聞き慣れている我々日本人の音感は西欧的になっているとも考えられます。新しい音楽を創造して行く為には、中国と日本を含むアジアの伝統音楽をじっくり聴いて研究する必要性を強く感じています。いずれにしても、私達が開発しつつある新しい音階が、古くて新しい東洋音楽の世界を開拓する可能性がある事も確かであります。前世紀からの蓄積によるDTMが可能にした、21世紀の奇跡とも言えるでしょう!この様な古くて新しい非平均律音階がアジア全体に再び普及するには、更にもう100年は係るではないかと予想しています。私達の仕事は、荒れた土地を耕して種を撒くことに留まるでしょう。22世紀にならないとその開花を見られないのであれば、二千三百年前に荘子先生が見た胡蝶の夢を私達も見ているのかも知れません。

千を聴き十を弾いては一作る、こころの窓は耳より開く!  

Listen 1000 play 10 and compose 1 times through the windows of heart !

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       3 MAR 2005

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