即興詩人

music forum

Ky-118

The Improvisational Poet

村山先生、今晩は! オペラの制作を始めて見ると、長い間の空白というものを感じては戸惑うことが幾らでも出て参ります。作詞と作曲がオペラ制作の二つの基本問題でありますが、そのどちらも即興性という要素を持っていますね。即興演奏については以前にも取り上げましたので、本日は即興詩について考えて見たいと思います。既に2001年の第043号のところで、村山先生の「シルクロード」の曲に私が即興詩を書かせて頂いたことがございます。その時に、作詞も作曲も即興で作ることが原点の一つであることを申し述べて、古代社会では歌も音楽も即興性が最も重要な要素であったのではないかと推論致しました。出来上がったばかりの即興詩や即興音楽の新鮮さについても言及致しました。先ほど検索で「即興詩」を引用するとこの頁まで出て参りましたのでびっくりして思い出していた処であります。
即興詩人」と言えば、アンデルセンの文学作品が最も有名ですね。日本では森鴎外等の訳本が出ているので、馴染みがある方が多くおられると思います。北国のデンマーク人であるアンデルセンがイタリアの文化に憧れて4回も旅行する間に生まれた文学作品でありますが、日本では森鴎外の名訳で一際著名になりました。即興詩人とは、即興詩を歌うことを本職とする詩人のことでしょうか? 詩を即興で作りながら歌うことは、楽器の即興演奏よりは遥かに難しいと思います。何故なら、楽器の演奏は音程が決まっていて七つの音しかないのに対して、詩は言葉で綴るものですから、何万という語彙の中から選ばねばなりません。しかも同時に、歌える形式に整えなければなりません。当時の即興詩人たちは、自ら楽器の伴奏を付けながら、即興詩を歌い上げたのでしょうか? 即興詩人が一人もいなくなった現代では想像もつかないことですが、もし即興詩人の時代に戻ることが出来れば、歌と音楽が生き生きと新鮮に映ることでしょうね。オペラの作曲に即興演奏の要素を拡大するために、通奏低音と通奏高音を採用すると申し上げましたが、作詞においても即興詩の要素を取り入れたいとの夢は持っています。しかし、即興詩は即興演奏よりは遥かに難しいと思いますので実現性は高くはありません。即興詩を歌える歌手など現代には一人もいないと思うからであります。もし、現代に即興詩人が一人でも現れたらもの凄いことになります! オペラの上演も即興性に拠れば、簡潔に速く出来ることになりますが、作詞も作曲もどちらも即興でつくること等は、将に夢物語ではありませんか? でも考えて見ることは楽しいですね。古代社会で通常に行われていた舞台音楽の原点に返ることが出来ればどんなにか素晴らしい事ではないかと想像を逞しくして見ました。作詞も作曲も即興性という要素を全く失わないで、幾らかでも残して置きたいと考えて来ましたし、出来ることなら現代の舞台でも実験して見たいと思うこともあります。オペラでは即興詩人はよく登場します。ジョルダーノ作曲の「アンドレア・シニエ」(1896)では、第一幕で何も知らないマッダレーナの前でシェニエが即興詩「ある晴れた日に」を歌う場面が印象的であります。ワーグナーの「マイスタージンガー」(1868)では、歌試合そのものが主題になっています。この試合に出場する歌手にも即興詩人の資格が求められているのでしょう。
即興作品には入念に作られた作品と異なり、即興でなければ演出できない
煌きと躍動があります。これらの要素は音楽本来の重要なことなので、現代作品も失うべきではありません。即興作品は一回限りの演奏しか出来ないので、同一再現性はあり得ないという特長を持っています。只一回しか再現できないコンサートもあって然るべきでありますし、現代の音楽も即興性の要素を積極的に取り入れるとよいと考えています。村山先生、作詞と作曲とは同時にはうまく行かないものですね。どちらかが全く進まない時もあれば、両方とも進まない時もあります。この様な時には、即興詩人が現れて救って下さらないか等と空想したりしています。今日の歌は、何処からともなく匂って来る花の気配を感じては、遠き都の栄華を想う歌であります。前回の辞世の歌と並べて鑑賞して頂けば幸いであります。現今は作詞の方が少し進んでいて、作曲の方はさっぱり進まない現状ですが、その逆の時もありますし、相変わらず亀さんの様に遅い歩みですが、諦めずに兎さんの背を見て着いて参る所存であります。

紫の花の心は知らねども、微かに匂う花落ちし跡!

Though not knowing the heart of violet flowers slight flavour still remains after falling !

English

1 Feb 2004 Litto Ohmiya

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「即興詩人」 アンデルセン(1835)・森鴎外訳(1901)

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NEW OPERA FROM KYOTO

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