鈴虫協奏曲

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Ky-155

Bell-ring concerto

今日は昼下がりに友人の喫茶店で素晴らしいコンサートに遭遇しました。お店には私しか居なかったので、モーツァルト好きの私の為にモーツァルト特集のCDをかけて呉れました。モーツァルトの代表的な名曲が7曲ほど入っていましたが、丁度「フルートとハープのための協奏曲ハ長調 KV299」が始まって暫くすると鈴虫の声が演奏に参加していることに気づきました。鈴虫たちはフルートとハープとオーケストラに呼応するかの様に見事なコンチェルトを奏でてくれていました。演奏が止むと鈴虫も沈黙して、始まるとまた鈴虫も鳴き始めます。最高音域の澄み切った楽音ですから、フルートより遥かに高い音域で見事な協奏曲になっていました。ですから、この偶然の演奏会は「鈴虫とフルートとハープのための協奏曲」という曲名になりますね。鈴虫は蟋蟀の様に鳴き続けないので、協奏曲にはぴったりですね。鈴虫がヴァイオリンなら蟋蟀はギターと言ったところでしょう。この「鈴虫協奏曲」はまさしく鈴虫とモーツァルトの共演であります。
この鈴虫の音色を表現するにはどんな楽器が良いかと考えながら聴き入っていました。ヴァイオリンの最高音部を使うか、ピッコロは音は高いが音色は無理かなとか、DTMではどうするかなどと夢が膨らみます。鈴虫たちは鳴くときはソロではなく、コーラスで歌っています。そしてハーモニーもテンポも完全に一致しています。自然界の巧さと精緻さには脱帽するほかはありません。人間の演奏ではそこまでは再現不可能ですからね。何の細工も調弦も必要ありません。唯あるがままに演奏すれば如何なるヴィルトォーソの極限的表現をも超えます。あんな小さい黒い虫が何と素晴らしい演奏をすることでしょうか。何時か「鈴虫協奏曲」を書きたくなりました。下手な楽器よりも鈴虫さんご本人に登場してもらう方が良いかも知れません。周波数は8000Hz以上でしょうか。絶妙のタイミングとテンポで、短く鋭くハーモニーを保って弾く鈴虫達に惜しみない拍手を送りたいところですが、拍手すると鈴虫に失礼なので心の中でブラヴォーと叫んでいました。本当に自然界には音楽が溢れています。もう人間が作曲することなどは必要ないとさえ感じます。特に音色の素晴らしさとテンポの完璧さには人間は叶う筈もありません。どうして虫たちに出来て人間は出来ないのか。それは永遠の謎ですが、一つだけ言えることは虫たちはこれ以上シンプルになれないほどシンプルであるということであります。「
最も美しいものは最もシンプルである」という芸術論での真理は分野を問わず普遍的であります。真の音楽は虚飾を一切切り捨てて磨き上げて極限までシンプルにならなければ完成しません。形式に拘り過ぎてはいけないし、音色数を増やし過ぎても、やたらに和声漬けにしても良くありません。それらはみんなごまかしの芸術でしかありません。いのち短い秋のひと時を華麗に奏でる鈴虫から、音楽の本質を教えられた初秋の午後の風景でした。
そしてその翌日も昼下がりに全く同じ条件が再現されました。モーツァルトが鳴っている間は昨日と同じ様に鈴虫たちもよく反応していました。暫くしてジャズに変えましたら、鈴虫は沈黙してしまいました。その後ベートーベンの「運命」をかけましたが鈴虫はお昼寝の時間になった様です。鈴虫たちはモーツァルトだけに反応していたのです。この事実はモーツァルトの音楽が人間が作る音楽では最も自然に近いことを証明しています。幸運にも二日続けて貴重な体験を致しました。鈴虫と音楽の交流を調べる実験を設定して下さったマスターに感謝申し上げる次第です。それにしても鈴虫とモーツァルトの共演は最高でしたよ!
その一週間後の午後5時頃に、同じ場所でお昼寝から目覚めた鈴虫たちが鳴き始めた時は、ピアノで比較的メロディの綺麗なジャズがかかっていました。その後はハワイアンや軽いポップス系の音楽が店内に流れていましたが、鈴虫たちは盛んに断続的に鳴き続けていました。このことから鈴虫たちはモーツァルトだけに反応するということでは無く、美しい旋律の音楽を好むことは確かではないかとの仮結論に至りました。カナリア群島の野外コンサートで、ヴァイオリンの演奏のある部分に蟋蟀が反応したので演奏が中断されたというお話も伺いました。秋の虫たちも良い音楽を聴いて反応する聴覚を備えていることは疑う余地はありません。

鈴虫の今宵奏でる調べこそモーツァルトの協奏曲や!

Bell-ring concerto with Mozart be so wonderful in Autumn night !

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8 Sept 2006

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