非線型の音楽

music forum

Ky-145

Non-Linear Music

村山先生:今晩は!今週はどちらへご出張でしょうか?海峡でのお話の中でのご助言をお受けして実験作品の作曲を再開致します。その所信表明のご報告が上がりましたのでご一読下さい。祇園祭から大文字までの一ヶ月が京都がもっとも暑い時です。鴨川の床はゆかと読みますが、貴船の床はとこと読みます。どちらも京の夏の風物詩ですね。いつかご案内できるのを楽しみにしています。先日は当地で花火大会があり、ホテルの22階から眺めて参りました。以前にKy-142で記述致しました線型の音楽は「非線型の音楽」と訂正致します。英語はNon-Linear Musicとなります。定型に対して非定型、平均律に対して非平均律と一連の用語を統一致しました。地元の「おんまく」という祭りでジャズタウンから街頭ライブを出しました。それを聴いていて「平均律」「定型リズム」「固定テンポ」が基本になっていると痛感しました。私達はそれを否定することから再出発しようとしているとの認識を新たに致しました。壮大な冒険でもありますが、この世に生ある限り探検を続けます。
本日8月28日は偉大な人物の誕生日でありますね。まず、ゲーテは1749年8月28日に生まれました。モーツァルトと同時代人であり、「魔笛」を高く評価してその続編の台本を書こうとしていた史実も伝わっています。ロシアの文豪であるトルストイは1828年8月28日に生まれました。トルストイはロシアの作家であるだけでなく、世界文学史上に巨大な記念碑を建てました。「戦争と平和」の他にも名作が多くあり、その宗教的な人生そのものが小説の様でしたね。そして、更に嬉しいことにあのカール・ベームも1894年8月28日に生まれています。モーツァルトの専門家として完璧に近いテンポを再現しました。ブルーノ・ワルターに見出されてミュンヘンに行き、ワルターが米国に去った後はリヒャルト・シュトラウスに長く師事しました。戦後のウイーン国立歌劇場の音楽監督に復帰した時には、ウイーンの町に提灯行列が出たとのことでありますが、退任してからは常勤に復帰せずにウィーン・フィルと数々の名演奏を記録しました。ベームの場合もそうですが、凄い弟子の先生はみんな凄いことを証明しています。潜在的能力があれば良い教師に付けば必ず伸びます。しかし、能力があっても平凡な教師の元では伸びる機会はありません。野球では野茂やイチローがその良い例ですね。ましてや本人に能力が無ければ、良い教師に付いても伸びる要素は全くありません。ですから孟母三遷の教えで良い先生を求めなければなりませんね。8月28日生まれの三人の人物を見るだけでも、日本には有り得ない天才達でありますね。やはり大地の歴史の相違から来るものでしょうか。でも、日本にもこれからはチャンスはあります。インターネット時代を迎えて、情報に関しては既に国境は取り払われたからです。少なくとも百年以後には、世界史を書き換える人物も日本から生まれる可能性は無いとは言えません。日本最古で最大の小説とも言われる源氏物語にしても、世界は狭い京都の中のお話であります。
人類の歴史の流れを意識してその将来に大きい影響を与える作品は日本では生まれていません。ダンテの「神曲」にしても、司馬遷の「史記」にしてもその後の世界に巨大な影響を与え続けました。日本からもその様な歴史的な作品が生まれることを期待したいと思います。
さて、非線型の音楽でありますが、単純な一次方程式による線型関数に対して、多要素で高次方程式を必要とする非線型関数の概念を音楽にも適用したいと念願した結果、「非線型の音楽」という名称に落ち着きました。既にご報告した通り、平均律の音楽では、転調はしても音律が変ることはありません。非平均律の音楽では、平均律の様に等間隔ではありませんので転調は出来ません。音律を変えるということは、構成音名間の音程が変るということであります。異なる音律に変換することによって情緒の表現に変化を持たせるという作曲法であります。これまでの東洋音楽でも音律は曲の途中で変えるということはあまり有りませんでした。その理由は調弦が簡単ではないことがその第一の原因であります。それも相当に耳の出来た演奏者でないと無理であります。21世紀を迎えてDTMの時代となった現代では、音律の変換は容易であります!このDTMの技術革新が古くて新しい東洋音楽の原動力となる訳であります。勿論、まだ完全な機能を持つDTMは製造されていません。しかし、DTMに関する技術は日進月歩でありますから、近い将来にはどの様なDTM楽器も製造可能であります。日本の音響技術は世界の最先端を走っているので、日本に於いてそれが実現する可能性も高いのです。それを「
夢のDTM」と名付けて心待ちにしているのです。私の学生時代の体験からすれば、コンピューター音楽もここまで来たかという感慨です。ピアノを弾いて自動的に楽譜を作れないかと真剣に研究していました。そのことは今では容易に出来る様になりました。やはりパソコンの普及が決定的に大きい要因になっています。スーパーコンピューターではなくパソコンの普及こそがこの事を可能にしたのですね。そして、DTMによる全く新しい架空楽器の誕生を期待しています。Virtual Instrument と呼ばれるDTM楽器は古くて新しい東洋音楽の未来を切り開く主要な手段になると思います。日本、中国、韓国あたりでこれから開発競争が始まるでしょう。技術力では日本が一歩リードしていると思いますが、戦略や思想の面では中国が先輩の様ですね。韓国も無視できない新興勢力です。東洋独特の音色を持つ楽器をどのように取り入れて行くか?また、周の時代に完成していた音律を現代に再現するにはどうすれば良いか?周の時代の文献はあっても録音が残っていないので、実際にはどんな音律なのかは分からないのであります。漢の武帝から周の楽制の復活を命ぜられた李延年は、それを果たせず当時の西域に行われていた音律を採用して新楽を制定したのが今日まで伝わる雅楽の伝統であります。奈良時代に日本にも伝わり平安時代に京都で日本的に完成して千年以上もその当時のままに今日に伝えられていることは将に歴史的な奇跡であります。シルクロードの東端に位置する京都の歴史的役割の重要性を示していますが、これからは京都からシルクロードを西へ新たな情報発信をする時代に初めて到っていると信じています。京都オペラはその為に制作されようとしているのです。これまでに前例のない事項ばかりなので、容易には前進できません。DTMの技術革新によって昨日出来なかったことが今日には実現する。今日は出来なかったことが明日には実現することを信じて研究と制作を続けたいと思います。わが京都はそのための有利な位置にいると考えています。「非線型の音楽」と命名しても、それは平均律ではない非平均律の音楽であるという意味であります。その歴史は長く何千年の風雪に耐えて東アジアの文化的首都にそれぞれに形を変えて伝えられて来ました。この研究はその源流を訪ねる探検であります。あと二十年位で到達できるものではありませんが、行ける処までは行って置きたいと最長不倒距離を目指して砂漠を歩いている心境なのです。この探検で常時携帯している計器はGPSではなく、DTM只一台であります。DTMの技術革新のみがこの探検の成功の鍵を握っていると言っても過言ではありません。20年先にゴビ砂漠の何処かから、最長不倒距離更新のメイルが届いたら、村山先生の第二次探検隊の出番です。後続隊のご幸運をお祈りしてわが先遣隊は消えることになるでしょう。歴史はこうしてリレーされて行くものです。一代では成し遂げられない困難な歴史的事業も幾世代を継いで完成されるものでありますね。
毎日暑いのでご自愛の上、ご移動の安全とご成功をお祈り致します。

何処までも歩いて行けば何時の日か、辿り着けんか幻の宮!

Far a way walking in the desert, someday to reach the palace of illusion !

English

         28 AUG 2005

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