自由組曲「京愁」

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Ky-128

Free Suite: Elegia Kyotienna

村山先生、こんにちは!師走というのに暖かく、桜が咲いたり、タンポポの花を見たりしますね。庭の木蓮も白い蕾を早くも開こうとしています。地球温暖化を肌で感じる昨今であります。「京都議定書」の発効を機会に、地球規模での対策が必要と存じます。さて、今回の実験作品は、自由組曲「京愁」でありますが、第一作品の「ヒロリーナ組曲102」から既に二年近くが経っていました。この間には全く作曲が進みませんでしたが、非平均律五音音階に到達出来た事により、新しい進路が開拓されました。第二作品では新しい非平均律五音音階の実験音階として四つの音階を造って、初歩的な実験作品をお届けしましたが、今回はその内の二つの実験音階を使った作品を用意致しました。作品の構成は15曲から成っていますが、一部を除いて同じ曲をU1実験音階とU3実験音階で再現しています。分類では何れも長調系のU1実験音階とU3実験音階を比較して、その音楽的表現にどのような差異が感じられるかをお聴き頂く為であります。
第一曲はヴァイオリンで静かに愁いに満ちて始まります。前作は春でしたが、今回は秋も深まり、同じ嵯峨野の大沢の池の紅葉の下を、物思いに耽りながら主人公が散策している情景を描いています。春の桜とは対照的に、紅葉が散る様は京都の秋を象徴していると思います。今回の作品では、五音音階だけでなく、白鍵部分では純正律七音音階も併用しています。非平均律五音音階と純正律七音音階との複合音階ですが、和声に関しては五音音階だけよりは遥かにその効果が向上しています。和声の綺麗な純正律の長所を生かすと共に、五音音階による日本音楽の特性はそのまま強調しています。第一曲がU1実験音階で再現されているのに対して、第二曲はU3実験音階で再現しています。U1とU3の五音音階の部分での偏移値の差は、平均で約37セントでありますが、よく聴けばその差異を直感して頂けると思います。
第三曲は短い曲ですが、四重奏のささやかな実験を致しました。ピアノと太鼓、ヴァイオリンとフルートによる四重奏がDTMでも実現する可能性を確認出来ました。U1実験音階だけでの再現です。第四曲はオルガンによる間奏曲を試験的に配置しました。オルガンがDTMでも有効であることをU1実験音階で再度証明しています。第五曲と第六曲は、初めて打楽器だけの作曲を試みました。同じ曲をU1とU3のそれぞれの実験音階で再現しています。DTMでは打楽器群の構成が充実しており、100種以上の打楽器が収録されています。打楽器が東洋音楽では古来より重要な位置を占めて来た歴史がありますので、打楽器の採用は今後とも不可欠であるとの認識による実験作品であります。秋の愁いには奇想天外な組み合わせでありますが、自由な連想を呼び覚まして頂ければ幸いです。
第七〜八曲はDTMで初めてフルートを採用しました。音質はまだ善くないですが、何とか使えそうな感触を得ています。U1およびU3実験音階で再現致しました。第九〜十曲は同じくトランペットを採用しました。音質はやはりまだ善くはありませんが、使えそうな気も致します。第11〜12曲は遂に箏を採用致しました。筝はDTMでの演奏は難しく、筝特有の文字通りの
琴線に触れる表現をするには工夫が必要ですが、まだ十分ではありません。筝は五音音階だけのU1およびU3実験音階で再現しています。筝は音質も比較的に善いのでDTMで十分に使える事が証明されました。京都オペラでは日本の楽器を採用することが必然的に求められると考えています。
第13〜14曲は再びピアノでありますが、前回の作品と異なるのは五音音階と七音音階の
複合音階で作曲されている処であります。二つの音階間での変調や併用は初めての実験作品でありますから、音楽理論上の手法などはまだ完成はしていませんが、新しい展望が見えて来たと実感しています。五音音階だけで作曲された前作と比較して頂ければ、この複合音階での作曲法が新しい音楽の地平線を開拓する可能性を予感して頂けると存じます。第15曲は再びバイオリンで第一曲と同じU1実験音階で再現されます。ABA形式に因んで締めくくる訳ですが、日本と東洋の音楽ではこの三部形式は本来は必要ありません。対称性を重んじる西欧の音楽形式には安定感がありますが、形式に拘り過ぎる傾向もあります。これに対して日本と東洋の音楽では形式はもっと自由であります。特に日本音楽では伝統的に繰り返しを嫌う傾向にあります。
まもなくクリスマスとお正月がやって参りますが、年内は相変わらずご多忙の事と存じます。ご自宅でゆっくりされたら、お聴きになったご感想などをお知らせ下さい。ご家族の皆様のご健康とご多幸を祈念申し上げて、年末年始のご挨拶と致します。(拝)

ここだけに都の華を敷き詰めて、夢の殿居に宴たけなは!

Here on the carpet full of Capital's flowers only one fest continues until dawn !

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「日本音楽の再発見」 団伊玖磨・小泉文夫 1976      15 Dec 2004

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