雅楽

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Ky-121

Gagaku

村山先生、今晩は!今日はどちらにご出張でしょうか? 早くも桜の季節も過ぎて青葉若葉の頃となりました。 一年で一番好きな初夏を迎えて、心身の充実を感じています。今年の正月から車を止めて自転車に乗り始めました。まだ、四ヶ月ですが大分慣れて来ました。京都に帰っている時も自転車で走り回っています。お仕事にも大雨でない限り、自転車で出勤しています。作曲や指揮のためにも、やはり基本的な体力が要ると考えて、健康と節約を兼ねて自転車に乗ることにしたのです。毎日自転車に乗っていると、指の動きも速くなりましたし、テンポの配分を決めるバランス感覚も良くなって来るのではと期待しています。
今回は
雅楽についてご報告致します。去る3月13日には、京都コンサートホールへ「いちひめ雅楽会」の第16回定期公演を聴きに参りました。大学時代の同級生ご夫妻と一緒に聴きに行きましたが、何と200人を超える出演者には驚きました。全員が平安装束で出演され、ベテランと若い世代の混成で雅楽の将来に明るい希望を感じました。雅楽については、今回初めて聴いた訳ではありませんが、オペラの作曲が完全に行き詰まっている時に、久しぶりに雅楽のCDを聴きました。1984年の宮内庁楽部の演奏で、20年も前から所有はしていましたが、本格的に聴いたのは今回が初めてです。「越天楽 三調」というこのCD記録は将に完璧な演奏であり、最近買い集めた何種類かの雅楽のCDを聴き比べて見ても、抜きん出た存在であります。この雅楽の演奏を聴いた感想と、モーツァルトの音楽との対比等について考察してみたいと思います。
雅楽は奈良時代に日本に伝わり、平安時代に京都で完成された日本で最初の本格的な体系を持つ音楽であります。世界最古のオーケストラとも言われ、
1000年以上も京都でその当時のままに伝承されて来た音楽ですから、京都は雅楽の誕生の地でもあります。シルクロードや中国方面では既に廃れて存在しないのに、極東の日本で完全に保存されて、且つ演奏され続けて来たのです。それも1000年前のままに、厳格に伝承されて来たのですから、世界史的にも誠に貴重な世界遺産と言えるでしょう。雅楽については何回にも渡ってご報告致しますが、第一回目は初めて雅楽に接した驚きの感想を申し上げます。それはモーツァルトに目覚めた時に匹敵するものであります。順不同で恐縮ですが以下の通りでありますから、どうかその時の私の感嘆の大きさをご想像頂けると嬉しく思います。
まず、
による通奏高音には感動しています。笙の演奏は曲の始めから終わりまで鳴りっ放しなのであります! 和声を担当するこの楽器は、吹いても吸っても音が出るために、ずっと鳴らし続けることが出来るのです。極めて高い領域の音ですが、その和声は所謂不協和音に属するものであります。雅楽に於いて何故にこの様な通奏高音が全曲に渡って演奏されるに至ったのかは今後の研究に待たねばなりませんが、ルネサンス以後はまだ400年の歴史しかない西欧音楽の理論では説明の出来ない異次元の音楽であります。平均律等の十二音音階による西欧音楽理論体系は現代世界に普及はしていますが、21世紀は非西欧音楽の時代の幕開けでもあります。モーツァルトを頂点とする西欧古典音楽は、現代では既に崩壊していると見るべきであり、これからの世界の音楽は民族色豊かな音楽が癒し効果を伴いながら発展を遂げると期待しています。日本では雅楽という原点に帰って、そこから21世紀の日本の音楽を模索するべきであります。通奏高音は1000年も前に完成していたのであれば、驚くべきことであります。通奏高音の再発見は私にとっては、全く新しい非西欧音楽への第一歩となりました。
次に
大太鼓によるテンポ配分は、雄大で且つ繊細な表現が行われています。一般に打楽器がリズムとテンポを制御することはどんな分野の音楽でも共通でありますが、雅楽に於ける大太鼓の存在は巨大であります。晴天の霹靂というか、全宇宙を揺るがす号砲であるとも感じます。その叩き方は、両手に撥を以って交互に押し出す様に演奏します。決して振り下ろす様な一般の太鼓の叩き方とは違うのです。それほど大きくもない大太鼓から、どうして全宇宙を揺るがす様な音が出るのでしょうか? 
篳篥という笛は形は小さいのに、どうしてあんなに大きな音が出るのでしょうか? 西欧楽器ではオーボエに類似すると思われる楽器で、チャルメラにも音が似ている感じがしますね。リードが二枚あるからでしょうか? 竜笛とともに主旋律を演奏する楽器ですが、竜笛よりもすこし低いパートを担当しています。
竜笛高麗笛は篳篥よりもすこし高いパートを担当する旋律楽器ですが、明快で鋭い音色で曲全体を引き締めていますね。
楽琵琶楽筝は、所謂分散和音を受け持っています。旋律は担当せずに、楽琵琶と楽筝は呼応して伴奏に徹している様です。楽筝は十三弦でしょうか?
鞨鼓は細やかな連打音を受け持っていますが、そのリズムとテンポは千変万化します。大太鼓が曲全体のテンポを決めるのに対して、鞨鼓は各小節のテンポを表現しています。
鉦鼓は小さい鐘の様な楽器ですが、その澄んだ高音の金属音は、目を覚ませる様に画龍点晴の如くに活を与えていますね。唐から伝わった中国系の雅楽はこの8種類の楽器で演奏されますが、高麗や渤海から伝わった朝鮮系の雅楽では竜笛の代わりに高麗笛を使用します。また朝鮮系には笙がありません。
この様に僅か
8種類の楽器なのに、雅楽の音楽は全宇宙を表現するかの様に、雄大にして広大無辺の響きを以って聴く者に迫ります。その雄大さは、西欧音楽のオーケストラを遥かに超えるものであります。それは1000年と400年の歴史の差でもありましょう。村山先生、記念すべき2004年の年頭に雅楽に遭遇した時の感想は言葉では表現出来ない位です。モーツァルトの音楽に出合った時より感動が大きいかも知れません。モーツァルトの音楽と雅楽から根本的な影響を受けて、新しい音楽を創造することが出来れば、わが音楽人生で最大の喜びであります。モーツァルトの音楽が少し分かり掛けて来た時に、雅楽という異次元の音楽世界の入り口に立って、只呆然としているというのが現状であります。まだ、どうして良いかも全く分かりません。モーツァルトと共に雅楽を聴き続けて行く過程の中で初めて新しい音楽の創造に至る道を見出せると信じるものであります。少しでも研究成果が出れば、オペラ制作に取り入れたいと念願しています。西欧音楽理論では説明出来ない音楽世界があると言うことが分かっただけでも素晴らしい事です。私にとっては2004年は脱西欧音楽元年となりました。オペラ制作が遅れても、新しい音楽世界の研究と開拓に暫く従事したいと思います。その結果どんな音楽が生まれるか? 今は想像も出来ませんが、京都オペラの為には素晴らしい音楽が生まれる可能性があると感じています。雅楽は将に日本音楽の源泉であり出発点であります。カオスの世界に居て、同時に統一を表現できる音楽は雅楽の他には有り得ません。どうして、こんな凄い音楽が日本に生まれたのでしょうか?

千年の眠りを破る大太鼓、京の都にいにしえの声!

The Big Taiko had awakened the Capital of Kyoto from 1000 year long sleep !

English

25 Apr 2004

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「越天楽 三調」 Denon 1984 ・ いちひめ雅楽会 075−361−2775

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NEW OPERA FROM KYOTO

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