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The Purple Flower |
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村山先生、今晩は!大寒や小寒を経て日一日と春がそこまでやって来ました。私は旧正月の方が好きですね。松竹梅の花々が揃うのはやはり旧正月の頃ですから、新暦のお正月はもう一つ殺風景で寂しい印象を持ちます。2月8日を将来のオペラ上演日と決めているのは、旧正月の頃の華やいだ雰囲気を意識しているからであります。さて、学生時代に短歌を少し始めて以来長い間中断していた、「一日一歌」を今年から復活致しました。長歌と異なり短歌は短いので詠むのに時間は掛かりません。40年近く休んでいた歌心は、今徐々に甦りつつあります。今日のテーマのこの歌は私の辞世の歌になる可能性の高い一首であります。 それは、「紫の花の心を知りたくば、歌な忘れそ花落ちるとも!」という一首であります。紫は高貴の色として、古今東西に共通して見られる色であります。京都に紫野という地名が実際にありますが、平安時代にむらさきが栽培されていたとも言われています。むらさきの花はまた、京都の象徴でもあります。山紫水明の京都は1200年の時空を超えて、近代都市に生まれ変わりましたが、平安の昔を偲ぶ名所旧跡は今尚健在であります。この一首は、京都オペラへの私の並々ならぬ想いが込められています。藤原定家のご一族の様に、800年以上も命がけで歌の遺産を守り続けて来た人々が今も健在です。定家の歌の伝統は、平成の時代にほぼ完全な形で継承されました! 冷泉家の方達の心意気には圧倒されます。TV番組で拝見したのですが、短歌を詠唱されるところを拝聴致しましたが、歌会始めの時の様に、各節の語尾を実に長々と詠唱しておられました。伝統とは云え、音楽性には乏しくメロディーはありませんでした。短歌をどう歌うかということも、私達の京都オペラでも研究課題になっております。短歌は長歌の最後のリフレインの部分でありますから、長歌の歌い方が分からなければ、短歌の歌い方も分かりません。五七、五七、五七〜と並べて、最後に七七で終わる為に、長歌の最後は五七、五七七で締め括くります。これが短歌そのものであり、謂わば長歌のフィナーレの部分が独立したのが短歌となったのであります。これに対して、俳諧は最初は発句と云われておりましたが、それは連歌の最初の部分が独立して俳諧が生まれたのであります。従って現在では俳句と呼ばれる世界で最も短い詩形でありますが、連歌の発句が起源でありますから、五七五では完結はあり得ないのであります。これに対して、短歌はそれ自体が自己完結性を内包しています。京都オペラが採用する詩形は、やはり短歌の方でありますし、長歌そのものも一部に採用したいと念願して来ました。長歌はかの万葉集にも260首が掲載されているに過ぎません。日本語は全て母音で終わる為に、押韻はしていませんし、押韻する必要が無かったと推測されます。日本の近代文学では、七五調という詩形が多く用いられました。更に七七調というのも生まれました。現代の歌謡曲にはこの七七調が多い様です。五七調と七五調を比較して聴いてみると、五七調の方には躍動感がありますね。七五調は安定感はありますが、美辞麗句の羅列に終わり易いという傾向もあります。この度の京都オペラの制作では、日本の詩形の原点まで遡って、将来の日本語の詩形の在り方までも研究する必要性を強く意識しています。「自由定型詩」というのは、形は比較的自由であるけれども、歌い易く且つ一定の形式をも包含している詩形を永年に渡って研究して参りました。その形式的な結論は中国の詩形に見ることが出来ます。既に千種類を超える自由定型詩が中国では完成していました。流石は詩の国の本家でありますから、最初にその形式で歌った題名をその詩形の名にして後世の詩人が詠い繋いで来ました。中国の詩の歴史は世界で最も長く、質量共に他を圧倒しています。しかし、私達の京都オペラでは、新しい日本語オペラを目差しているので、日本語の美しい響きを活かしながら、最も自然に歌えるメロディーを作曲する必要があります。この原点こそ、山田ー団の師弟が日本オペラ史上で初めて取り組んだ問題であり、未だに完全な解決を見ていない根本問題なのであります。従ってこの問題に於いて何らかの改革が無ければ、新しい日本語オペラは誕生し得ないのであります。 そんな事を考えながら、毎日新しい日本語オペラの制作を模索している日々でありますが、思いがけず早くも自らの辞世の歌に到達してしまいました。この一首は、オペラ制作に賭ける一歌人の心意気を歌ったものとして、その心を感じ取って頂ければ大変嬉しく存じます。オペラの制作は今始まったばかりなので、辞世までは随分と時間がありますが、その精神を今から心に秘めて制作を続けたいと念願しています。因みに西行法師は、「願わくば花の下にて春死なむ、そのきさらぎの望月のころ!」との辞世を残しました。また、本居宣長は、「敷島の大和心を人問わば、朝日に匂ふ山さくら花!」という事実上の辞世の歌は余りにも有名であります。 |
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25 Jan 2004 Litto Ohmiya |
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