空間と時間

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Space and Time

村山先生、2004年が明けましておめでとうございます。今年の初夢は如何でしょうか? こちらでは昨年無事に還暦を迎えましてから、初めてのお正月であります。20歳の時(1963年)に京都で新しい日本語オペラの制作を夢見てから、丁度40年が経過しました。そして今年からいよいよ本格的な制作に取り掛かる事が出来る喜びを静かに祝っています。苦節40年は長いようで短くも感じます。長い間の紆余曲折を経ているので、もう後戻りは有り得ません。新年に因みまして、私の初夢をお伝えして、お互いに今年が更なる躍進の第一年になることを祈りたいと存じます。
初夢は私のライフワークである「
わが二都物語」が完成する夢であります!今年から作曲や作詞を始める時に、誠に嬉しい初夢ですが、表題の「空間と時間」とはオペラの制作過程に於ける基本問題を提示しています。即ち、「空間」とはここでは舞台のことでありますし、「時間」とはテンポを含むオペラ進行の時間的要素を意味しています。オペラの上演時間は150分を超えないことを一つの理想にして参りました。その理由はオペラが誕生した17世紀から最盛期の19世紀と現代では、時間に関するあらゆる条件が異なります。録音や映像記録手段を持たなかった当時では、ダ・カーポ アリアに代表される様に、同じ歌と音楽を二回ずつ繰り返しながら進行するという習慣がありました。アリアなどを一回歌うだけなら半分の時間で終わってしまうので、聴衆に対するサービスとして二回ずつ歌って来たのですが、現代ではそれはあまりに回りくどいと感じます。録音や録画手段が普及しているので、何時でも後で繰り返し鑑賞出来るという恩恵に浴しています。そのために現代では、ダ・カーポ アリアは必要ないのであります。従ってオペラの上演時間も比較的短縮してもよいと考えて来ました。2時間から2時間30分位のところが、現代では相応しいのではないでしょうか? オペラの進行をグラフで表示するとすれば、X軸に時間をY軸に空間を当てます。序曲の第一音からフィナーレの最終音まで、あらゆるテンポの変化を遂げながら音楽は時間的要素が止まる事なく進行して行きます。一方、舞台では歌と台詞と踊り等が時間軸に従って、華麗に淀みなく変幻万化して行きます。この様に実際の上演を想定した制作過程が最初から配慮されなければ、観衆に感動して頂けるオペラは書けません。オペラ制作の現場とは、オペラ上演の現場と同一であるべきであります。それには時間と空間という二大要素を常に意識した制作過程を必要としています。そうして時間的要素では、分秒単位で作詞・作曲する必要がありますが、舞台表現は多様性を孕んでいるので、原作者が固定観念を後世の演出家に押し付ける間違いはしてはならないと思います。初演時の舞台は、時間軸に対する空間的表現の一例に過ぎないと考えるべきであります。でも、初演時の具体的なイメージなくしては、作詞も作曲も出来ないので原作者の意図する初演時の舞台造りは独創的であるべきであります。歌詞と音楽が時間軸に拠って演奏されるのは、幾世紀を経ても変わらないのに、その時間軸に対応する舞台表現は時代により変化して行きます。モーツァルトの最終作品の「魔笛」も、初演時に近い歴史的な舞台表現から、現代の様な抽象的な舞台表現まで様々な演出がなされていますね。しかし、時間軸を流れる歌と音楽はモーツァルト自身が初演を指揮した当時と殆ど変わらないのであります! こうして不朽の古典作品は初演以来、途絶えることなく継承されて上演され続けて来たのであります。四大オペラの一つの「コシ・ファン・トゥッテ」の様に初演時から165年も上演されなかった名作もありますが、台本の内容が時代を先取りしていたので、時代が作品に追い付くのに165年も掛かったのであります。今まさに、「コシ・ファン・トゥッテ」は現代のオペラ界においても燦然と輝いているではありませんか! 
こうして制作を始めてみると、オペラを観る目も変わって参ります。これまでの観客の立場から制作者の立場に変わっていることに気付きます。特に
テンポの変化には敏感に反応して仕舞います。どうして、もっと速く歌わないのか? とか、もっとゆっくりとはっきりとメリハリを付けて! とか、間が取れてないではないか? 高音が正確に出ていない! 等などと思わす手に力が入っているのに気付いてはっとします。まるで自分で指揮したり、演出したりしている様ですよ! 村山先生、兎にも角にもこうして制作が始まりました。オペラ一曲を制作するには専従している職業作曲家でも3〜4年は掛かると云いますから、多忙な別の職業を持っている私の場合は何年掛かるか分かりません。只一つ言える事は、「始めなければ終わらない」と云う事であります。ゴビ砂漠を緑にしようと永年努力しておられる、あの95歳の遠山正瑛先生が挫折して途方に暮れている若い人達に、「始めなければ終わらない」と率先して先頭に立って植林を続けて来られたのをTVで拝見して、深い感動を覚えたのを記憶しています。私の場合も何時に成ったら完成するのか分かりませんが、オペラの台本と基本的な作曲だけは完成させたいと思います。幾つかのオペラの台本楽譜CDを後世に残すことが出来れば、40年来の初夢が実現することになります! これまで通り亀さんの様にゆっくりですが、止まらずにゴールに向かって歩いて行きたいと思います。そして21世紀の京都で若い人々と共に、待望の新しい日本語オペラが誕生することを祈るばかりです!

初夢は京のオペラを立ち上げし、ウィーンと並ぶ楽の都に!

The new year dream is the musical Capital of Kyoto like Wien !

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1 Jan 2004 Litto Ohmiya

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NEW OPERA FROM KYOTO

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