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Litto Ohmiya: Hirollina Suite 102 |
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村山先生、今晩は! 6月8日の記念コンサートは如何でしたでしょうか?こちらでは念願のオペラ「わが二都物語」のスケッチの制作が進んでいます。還暦記念の今年の5月26日に録音した、「ヒロリーナ組曲102」はMU2000を音源として、KORGの88鍵キーボードで直接録音したCD版であります。37分28秒の7曲からなるこの組曲は、ヴァイオリン、ピアノとオルガンの三つのモードで順番に演奏されています。僅か7曲ですが、このオペラのエッセンスの抜粋で構成されていますので、作品の傾向は十分に感知できるものと理解しています。 第1曲は「桜散る池を巡りて」、ピアノで前奏曲を兼ねています。アダージョでテンポは変化します。京都・嵯峨野にある由緒ある丸い池の堤の桜がちらほらと散っては水面に浮かんで揺れています。ヒロリーナが桜の下をゆっくり巡りながら歌います。音楽は変ロ短調5音音階で作曲されていて、必要に応じて短い転調はあります。テンポはTempo Rubatoで限りなく変化して行きます。桜の花びらがひらひらと舞い落ちる様をピアノの高音部で繊細に表現しています。桜の花は春の象徴であると同時に、永久の別れの象徴でもあります。最終曲では桜の花は激しく舞い落ちて、華麗な花嵐となります。それを暗示する第1曲のテーマが絶妙なテンポの変化で表現されています。 第2曲は「遥かなる愛」、ヴァイオリン・モードでラルゲットですがテンポは変化しません。ゆっくりしたテンポでヴァイオリンからチェロまでの広い音域で、和声の効果を強調しながら、ダンティーノが「遥かなる愛」を歌います。それは丸い池の周りを二人が別方向に一周出来て、元の出発点に共に辿り着けば、幸せに結ばれるという古への伝説に基づいています。この曲も基本的には変ロ短調5音音階で作曲されています。MIDIによる直接録音なので、実際のヴァイオリンの演奏方法とは異なる表現になっています。この点は非現実的ではありますが、新しい音楽の可能性を示していると考えています。音源モデルの更なる発展により、もっと広い可能性が期待されます。 第3曲は「この道を共に」、オルガン・モードでアンダンテですが、テンポは変化しません。丸い池を後にして御所の方へ後醍醐帝に報告するために、二人が手に手を取って行進します。その後の前途にどんな困難が待ち受けているか、幸せな二人は知る由もありません。世界は二人のためにあると信じている若い二人の青春を謳歌する行進曲です。オルガンは高音から超低音まで発声する巨大な楽器ですから、その音域と音量を十分に運用して迫力を与えています。変ロ短調から変二長調に転調して演奏されていますが、基本的には5音音階を踏襲しています。 第4曲は再びピアノ・モードで「夢の中の踊り」をテンポ・ルバートで大胆かつ精緻に表現しています。音楽表現の三大要素である、「緩急、高低、強弱」を駆使して目まぐるしくテンポが変化して行く踊りの音楽です。アレグロですが、テンポは最大限に変化を遂げます。変ロ短調と変二長調を基調に置きながらも、全音域を網羅して無調的になっています。この音楽に合わせたダンスを舞台で表現するのは難しいかも知れません。実際の上演の際の踊り手に期待が係ります。踊れる歌手は少ないので、二人の代理の踊り手が舞台で踊る事になるでしょう。この音楽は戦乱により離れ離れになった二人の運命との闘いをダンスで表現したものです。お互いに求め合いながらも離されて行く、運命に翻弄される二人の心の中の闘いでもあります。このオペラのクライマックスとも言える場の音楽であり、ピアノでしか表現出来ない音楽として作曲されています。テンポの変化を究極まで高めた、テンポ・インフィニトの先進的な実験作品でもあります。 第5曲は再びヴァイオリン・モードで「愛の喜び」を歌い上げます。ラルゲットでテンポは変わりません。困難に打ち勝って愛の勝利を得た二人がDuetで高らかに歌い上げます。第2曲よりはすこしテンポが速く感じられる演奏が求められます。調性は再び変ロ短調を基調としています。愛の勝利は現世でのものではなく、来世に於いて得られる勝利であります。そしてダンティーノの余命は幾ばくもない事が暗示されます。彼は次の第6曲で深い祈りを捧げて天国への道を求めているのです。 第6曲は「天国の光」、再びオルガン・モードで荘厳な祈りの音楽が響き渡ります。変ロ短調5音音階を基調として、ラルゴながらその内的テンポは極めて速いアレグロ並の潜在力を表現する難しい演奏が求められます。表面上のテンポは変わらないのに、内なるテンポは速く変化しているのです。この内的テンポこそ、この組曲の隠れた真髄でもあります。例えば、同じ速度で走っていても、運転者の心は昂ぶっている時を想像して頂たいと思います。最後の高音でのフィナーレは天国への光が一筋輝いているのを表現しています。 第7曲は再びピアノによる「花嵐の別れ」で、懐かしいあの「ヒロリーナのテーマ」で始まります。テンポはアダージョですがテンポは変化します。初めはひらひらと舞い落ちていた桜花ですが、仕舞いには舞台一面に花嵐となって乱舞します。それはダンティーノの昇天を暗示しています。彼はヒロリーナにこの世では再会できないまま召されて行く事になりますが、このオペラのフィナーレを飾るに相応しい音楽です。実際の舞台で花吹雪が舞うので、音楽はやや控え目に音を少なくしています。私自身も桜の乱舞を見ると何時も胸が痛くなります。そして、人の世の果かなさを思い知らされます。この曲の最後の一音は、一際大きい花弁が落ちるのを表現しています。それはダンティーノの召される瞬間を暗示しています。勿論、変ロ短調5音音階を基調として作曲されています。 実際のオペラでは、これらの抜粋された曲の間に沢山の挿入曲や伴奏と間奏の音楽が入ります。オペラのテーマやアリアとコーラスなどの抜粋から組曲を制作するのが近代組曲のひとつの特徴となっています。形式は自由でその順列も自由でなければなりません。音楽が先行していますので、この音楽に相応しい歌詞をこれから作って参ります。また、歌詞が先に出来上がれば、後から作曲をする事になります。以上、作曲者の意図について解題させて頂きました。先生はどの様なご感想をお持ちになられましたでしょうか、後日お聞かせ願えれば幸いに存じます。 |
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ヒロリーナ組曲全曲 audio 21 Jun 2003 Litto Ohmiya |
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