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Tempo Control in Composition |
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Q: 本日はミュージック・フォーラムの第100回記念の日を迎えられて、誠におめでとうございます。この記念すべき日のテーマは何でしょうか? A: 有難うございます。そのテーマは、やはり音楽で最も重要な要素であり、それを欠いては音楽そのものが成り立たないというテンポについて取り上げます。 Q: 音楽の三大要素とは、リズム、メロディーとハーモニーではないのですか? テンポは入っていませんが? A: それらの要素は全て、テンポという止まる事のない時間の流れの上にこそ成り立っているのです。リズム、メロディーとハーモニーも全て、時間の流れであるテンポに乗って初めて音楽の一部を構成出来るのですよ。 Q: では、テンポに乗れないで、途中で止まったりすると音楽に成らない訳ですね? A: そうです。音楽の演奏でも、その曲の第一音が始まって最後の一音に到るまで、一音たりとも止まってはならないのです。止まれば演奏は中止されて、コンサートも中止に等しい事になります。 Q: よく演奏会で奏者が弾き間違いをすることがありますね? 弾き直したり、そのまま続けたりしますが? A: 私は若い人にはよく言うのですが、途中で間違えても絶対に止まってはならないと繰り返し教えて来ました。 Q: 間違えても、知らぬ顔でそのまま続ければ良いのですか? A: そんなに簡単に考えられても困るのですが、間違えて止まるよりは遥かに良いという意味なのです。聴く人のレベルに応じて、それを見破る人もあれば、気がつかない人もいる筈ですね。でも、演奏を中断すれば誰にも分かってしまいます。せっかく曲の始めから続いてきた音楽的情緒や興奮がそこで途絶えることになります。コンサートがそこで終わってしまうと考えても良いほどの大失敗になりますからね。途中で止めてもいいのは練習の時だけです。 Q: なるほど、よく分かりました。ではテンポとはどのような定義になりますか? A: 定義せよと言われれば、かなり難しいのですが、敢えて定義すれば、「音楽の存在を決定づける不可欠の要素であり、音楽の演奏においては絶対に止まってはならない時間的要素である」とでも言えますかね。 Q: 先生は何時も、テンポは絶えず変化するし、変化しなければならないと言っておられますが、そのことを詳しく説明して頂けませんか? A: テンポは作曲者が楽章の冒頭に通常では音楽用語であるイタリア語で指示します。その楽章では殆ど変化しないのが常識になっていますが、それでは余りに単調で聴いている方ではすぐに飽きが来てしまうのです。長い楽章ではテンポが変化しないと実に退屈ですね。優れた演奏者は、楽譜に書いてなくても絶えず微妙にテンポを変化させながら演奏することが出来ます。歴史的な名演奏とは全てそのような高度な技術と精神に基づいて演奏された記録なのです。 Q: 名曲の名演奏は何度聴いてもよいとよく言われますが、テンポが微妙に且つ高度に変化しているのですね? A: その通りです。ですから作曲者も出来るだけテンポの指示を細やかに書くべきなのですよ。テンポの指示が最も多いのは何と言っても、モーツァルトその人です!だから演奏者もテンポに敏感にならざるを得ないのです。そして聴いている人も、恰も大自然の中に居るような感覚になるのです。自然の風が一番心地よい様に、モーツァルトの音楽も何度続けて繰り返し聴いても決して飽きることはないのです。 Q: では、テンポとは時間なのですか、それとも速度なのですか? A: それは最も大事なところに気が付かれましたね。物理学的に言えば、テンポとは時間の変化率、即ち加速度に相当します。その最小単位は恐らくは0.01秒の次元の出来事なのですよ。 Q: そんな微小な時間的変化を人間の耳は聴き分けることが出来るのですか? A: それを聴き分けるのが音楽の達人になることなのですよ。テンポに関してはモーツァルトを超える作曲家はもう出て来ないと言われていますが、モーツァルトはそのテンポの変化によって、登場人物の感情表現をする作曲法を初めて完成させたのです。モーツァルト以後も誰もまだ真似の出来ない作曲法なのですよ。 Q: 分かりました! 先生が何時も300回聴いたとか、1000回聴かないと分からないとか言っておられる意味が今やっと分かりましたよ。凡人の耳では聞いても直ぐにはそのテンポの微妙な変化まで聞き分けられないからですね? A: その通りです。分かって頂いて嬉しく思います。モーツァルトなら一回聴けば十分なことでも、我々凡人の耳では、繰り返し聴くこと以外にそれを感得する方法がないのです。300回で分からなければ500回、それでも分からなければ1000回までもね! 音楽の演奏に於いてもやはり聴くことが基本であり、聴けるところまでしか演奏出来ないと云う事も分かりました。 Q: でも、先生、何百回も聴いて本当によく飽きませんね? A: はい、モーツァルトの作品で名演奏なら、例え1000回でも続けて聴いても飽きることはありません。ベートーベンは学生時代はよく聴きましたが、100回以上聴いたのは、ヴァイオリン協奏曲と交響曲第3番だけです。 Q: 聴くだけでも、相当な時間が掛かりませんか? A: 意識がある間は聴き続けます。人間の聴覚は胎生の時より最も早く発達していて、耐久性もあります。聴きながら寝てしまうことも出来ます。朝はまた同じ音楽を聴いて起きるという生活を続けて来ました。モーツァルトの音楽を根源的に理解するには無尽蔵な時間を必要とします。 Q: そうですか? とても効率がわるいお話ですね。 A: 我々凡人には、それしか方法がないのですよ。聴きながら短い一生も終わることになります。 Q: それでは作曲する時間も取れないではありませんか? A: あはは! それもそうですね。でも私は作曲家ではないので構いませんよ。聴くだけで十分に満足していますから。 Q: それでは最後に、先生のお勧めの作品と演奏者を幾つかご紹介して頂けませんか? A: はい。でもそれは好みもあり難しいことですが、やはりモーツァルトの専門家の演奏でなければ聴く価値はありません。1975年前後の録音で、指揮はカール・ベームと楽団はウィーン・フィルならまず間違いはありません。 Q: そうですか? その他の指揮者と楽団はどうですか? A: 具体的に何処がいいとか言えませんが、指揮者が楽譜を見ていなければまずはお勧め出来るでしょう。 Q: 指揮者は楽譜を見てはいけないのですか? A: 微妙で高度なテンポを表現するには、楽譜を見ていては出来ないのです。楽譜を見るのは練習の時に限られます。 Q: オーケストラの楽団員は皆んな楽譜を見ていますが? A: オーケストラの楽団員は楽譜を見ても構いません。テンポは指揮者が決定する権限を握っているのでね。 Q: ああ、そうですか。それを聞いて安心しました。今日は長時間有難うございました。今後のフォーラムに期待していますから! A: 有難うございます。この世に生ある限り聴き続けて参りたいと思います。(第1部完) |
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23 Mar 2003 |
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