ラルゲット礼賛!

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Ky-183

Bravo Larghetto !

ラルゲットは音楽に於ける究極のテンポと考えます。速くもなく遅くもなく、速すぎずまた遅すぎずに悠然としてゆったりとしたテンポであります。多少のルバートも伴うこともあり人生の至福の時を過ごす時のテンポではないかなと思います。時間はこころが急いていてもいなくても物理的な速度は変わりません。それなのに何故に同じ時間の流れが緩やかに流れたりまた急流の様に流れたりするんやろかなと思いませんか。それがテンポという概念と違いますか。同じ速度で過ぎ去る時間空間の中でアレグロもラルゲットも感じることが出来ますし演奏することも出来ます。それが指揮者の最大の仕事やないですか。また作曲者もテンポに変化を付けて物語を進行させることになります。起承転結や序破急は古今東西のテンポ理論でもあります。音楽作品の各楽章に必ずテンポの指示があるのはそのためであります。モーツァルトの時代の協奏曲や交響曲は急ー緩ー急または急ー緩ー急ー急と指定されます。その前の時代では緩ー急ー緩ー急との四楽章の構成であったのが変化したらしいのです。それで第一楽章に短い緩徐序章が付くこともあります。こうして協奏曲や交響曲の第二楽章は緩徐楽章として定着しました。ここではラルゲットとアダージョやアンダンテの出番となります。ピアノ協奏曲第24番の第二楽章はラルゲットの真髄を示しています。この楽章の演奏や指揮はモーツァルトの全作品の中でも最も難しい箇所であります。”ラルゲット”を弾かせれば演奏者と指揮者の力量が直ちに判定されます。速く飛べる飛行機が遅く飛ぶのは至難である事に例えられます。指揮者と演奏者の演奏機会の数だけのラルゲットの解釈があります。同じ組み合わせの演奏者と指揮者でも演奏の場所と日時により全く異なるラルゲットとなります。では理想のラルゲットはどれ位の速さでしょうか。それはメトロノームではどれ位かとよく聞かれますがそれにはお答え出来ません。何故ならそれは数値目標で表示出来ないからであります。音は気温20度で秒速約340mとのことでありますが湿度によっても変化します。何より音楽ホールの反射によっても音響効果は全く変わります。聴衆が満員では温度と湿度も上がりますし聴衆の服装によっても反響が変わります。音楽ホールの天井の形状と壁の装飾や美術作品まで音響に影響を与えているのです。それ故にテンポを数値で指定することは不可能ですし意義がないことをお解かり頂けたでしょう。ですからアレグロ、ラルゲット、アレグレットという風にしか表現できないのです。そしてその作曲家の指示をその日その時に指揮者がどう解釈するかでその会場でのテンポが決まるのであります。それは千載一隅のテンポであり再現は不可能であります。楽譜にラルゲットと書いてあっても最高のラルゲットは幾つも有り得るのであります。時間の芸術である音楽の醍醐味と言えるでしょう。
さて肝心のオペラの台本の制作が進んでいません。仮想目標まであと12年と8ヶ月となりました。このままのペースでは目標達成は難しいかも知れません。今、私の音楽番組では朝比奈隆さんのブルックナーの交響曲全集を取り上げている。朝比奈さんは中川牧三さんに抜かれるまでは世界最高齢の指揮者記録保持者でした。ブルックナー全集は三回、ベートーベン全集は七回も録音しておられる。ブラームス全集も出しておられる。朝比奈の三大Bと謂われる所以であります。ブルックナーに関しては二回目の1993〜94年ころの録音を毎日聴いているが、その緩序楽章のテンポはさすがに悠揚迫らぬものがあります。日本人指揮者の誰も到達することが出来なかったテンポではないかと感動を禁じえない。また演奏している大阪フィルハーモニー交響楽団も朝比奈さんとは一心同体で文句なしに世界一のブルックナーである。

ラルゲット至福の時は流れ行きこれに優れるテンポはあらじ!

Larghetto is so happiest tempo in music as there be no others than it !

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3 May 2010

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