モーツァルト:フィガロの結婚(2)

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Mozart : Le Nozze di Figaro (2)

村山先生、明けましておめでとう御座います。早くも2003年を迎えました。今年のお正月は如何お過ごしてしょうか? お蔭様でこちらでも全員元気で年を越すことが出来ました。モーツァルト全曲マラソンは、今月はオペラは「フィガロの結婚」、協奏曲は「ピアノ協奏曲第20−24番」を繰り返し聴いております。この四つのピアノ協奏曲も全て本当に素晴らしいですね!
さて、今聴いている「フィガロの結婚」は、1968年にベルリンのイエス・キリスト教会で録音された名盤で、指揮はカール・ベーム、演奏はベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団、合唱はベルリン・ドイツ・オペラ合唱団、通奏低音のチェンバロ奏者はヴァルター・タウジッヒの皆さんでした。配役はアルマヴィーヴァ伯爵にディートリッヒ・フィッシャー・ディカウ(バリトン)、伯爵夫人にグンドラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)、スザンナにエディット・マティス(ソプラノ)、フィガロにヘルマン・プライ(バリトン)、ケルビーノにタティアーナ・トロヤノス(メゾ・ソプラノ)、バルトロにペーター・ラッガー(バス)、バジーリオにエルヴィン・ヴォールファールト(テノール)、マルチェリーナにパトリシア・ジョンソン(メゾ・ソプラノ)、ドン・クルツィーオにマーティン・ヴァンティン(テノール)、アントニーオにクラウス・ヒルテ(バス)、バルバリーナにバーバラ・フォーゲル(ソプラノ)、二人の少女にクリスタ・ドルとマルガレーテ・ギーゼ(ソプラノ)の皆さんです。そしてまず申し上げなければならない事は、この演奏の完成度は高く、特に歌手の豪華な配役は現代の若い世代を圧倒して止みません。20世紀を代表する歌手をこれだけ集めれば、もう何をか言わんやであります。以前にご報告しましたのは、1986年のウィーン国立歌劇場の東京公演で、伯爵夫人に同じくグンドラ・ヤノヴィッツ、伯爵にヨルマ・ヒィンネニン、フィガロにアルベルト・リナルディ、スザンナにバーバラ・ヘンドリックス他で、指揮はシルヴィオ・ヴァルヴィーゾ、ウィーン国立歌劇場管弦楽団と同合唱団の公演記録でした。その他に1975年12月にウィーンで録音されたカール・ベーム指揮、同じくウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、通奏低音のチェンバロはフィリップ・アイゼンバーグ他の出演でDVDに収められた公演も鑑賞致しました。この時の配役は、伯爵にディートリッヒ・フィッシャーディスカウ、伯爵夫人にキリ・テ・カナワ、スザンナにミレッラ・フレーニ、フィガロにヘルマン・プライ、ケルビーノにマリア・ユーイング、マルチェリーナにヘザー・ベッグ他の出演でした。この普及されたDVD版では、映像は翌年にロンドンで収録されたものを用いて、録音はウィーンでのものを合成して映画仕立てに作り上げているものですから、口の動きと歌が合っていないし、録音が素晴らしいのに映像があまり評価出来ないのが難点ではあります。この際には映像の論評は控えさせて頂き、音声だけに限ってご報告申し上げます。
演奏はカール・ベーム指揮とウィーン歌劇場管弦楽団の組み合わせは、やはり最高水準を維持していたと思われます。歌手ではグンドラ・ヤノヴィッツの伯爵夫人は群を抜いて素晴らしく、その気品ある歌唱には安定感がありますね。キリ・テ・カナワはまだグンドラ・ヤノヴィッツには遠くかなわないと思います。それと同じ位の十八番が、ディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウの伯爵役であります。この二人にフィガロ役のヘルマン・プライは20世紀最高の組み合わせであります。1986年東京公演での、伯爵役のヨルマ・ヒィンネニン、フィガロ役のアルベルト・リナルディも共に、先輩歌手の歌唱を十分に研究した跡を感じさせます。それ故に、1980年前後のベームとウィーン組の記録は20世紀を代表する、「フィガロの結婚」の歴史的演奏と評価されて来ました。1980年代にモーツァルトの歌劇を再現する水準は頂点を極めたので、それ以降より21世紀初頭に至る現代では、残念ながら見るべき公演記録が見当たらないのであります。20世紀の最高水準を超える演奏は、今後共そう容易には出現しないと予想致します。
それにしても、モーツァルト30歳の時のオペラ「フィガロの結婚」の出来栄えは完璧ではありませんか。アルノンクール先生のご指摘を待つまでもなく、オペラに必要な全ての要素が織り込まれていて、実に「
オペラの学校」とも言うべき作品であります。その台本と音楽、ソプラノからバスまでの広い音域、美しく楽しい音楽、誰でも一度聴いたら忘れられないアリアの数々、緩急自在の音楽によって展開する楽しいオペラの夢の様な世界は、将に全オペラ作品の第一位に挙げられる所以であります。その第二位は「ドン・ジョヴァンニ」であることも異論はありません。それ故に、「フィガロの結婚」の登場によって、オペラが形式と内容においても完成したと考えます。それは1600年のカメラータ達の実験より186年を経過していました。その後はウェーバーからワーグナーへと続いたドイツ語オペラと、ロッシーニ、ドニゼッティ、ヴェルディと繋いだイタリア語オペラの二大勢力によって19世紀に最大の発展を記録致しました。そしてフィレンツェでの誕生より403年を経過した今日では、50年以上も歴史的新作品は出現しないままに、過去の遺産の再現にのみ多大の努力が各国において継続されて来ましたことはご周知の通りであります。その再現の水準も時代と共に下降しつつあり、1980年代をピークにして今後に再上昇の機運が生まれるかどうかは不透明であります。昨年秋にウィーン国立歌劇場に着任された小沢征爾先生に新たな希望を託して、世界各地の歌劇場の推移を見守りたいと思います。今日は新年に当たりまして、「フィガロの結婚」を例に挙げて今後のオペラの行く末に思いを馳せて見ました。村山先生の今年のご活躍を心より祈念申し上げて、新年のご挨拶と致します。

ゆめうつつ心もここにあらざれば、見れども見えず聞けども聞こえず!

Without concentration of mind, one can not see or hear the Gospels !

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5 Jan 2003

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