360度のオーケストラ

music forum

Ky-091

Orchestra in the Outer Round Stage

村山先生、今日は!暑い夏も終わり、既に秋の虫の音楽が聞こえる季節になっています。あれから早くも一年が経過しました。モーツァルトのオペラの研究と5音音階による作曲の実験はそれなりに進展しています。8月はジャズタウンに没頭していましたので、気がつくと我が家の庭にも既に虫達のオーケストラが帰って来ていました。日が西に傾くと虫達は早くも草叢のあちこちで調弦を始めて、夜のコンサートに備えている様ですね。去年は虫達の奏でる音楽のテンポが皆異なるのに、全体としては統一を保っていることを発見しましたが、今年は虫達のオーケストラが360度の外円形ステージから聞こえている事に気がつきました。ローマの円形劇場は歴史的に有名ですが、観客が円形に取り囲んで、演奏者はアリーナの中にいる訳ですが、それとは反対に虫達が外円形に聴衆を全方位から取り囲んで演奏している事を再発見しました。我が家の庭はそれほど広くはありませんが、夏の間毎日夕方には水を撒いていました。幸運にも二年続いて新発見がありました。それにしても虫達の音楽は何と素晴らしい事でしょうか。指揮者は何処にいるのか? 緩急、高低、強弱の三大要素を自由自在に演出して、一見単純な繰り返しを延々と続けているのをよく聴いているとテンポや音色も微妙な変化の連続であることが分かります。また日によっても異なり、台風が接近するとテンポは幾らか速いと感じます。虫の種類は数種類しかいませんので、弦楽何重奏と言ったところですが虫達の数も多いのでオーケストラを形成しています。また、家々からの色んな音も混じっていますね。庭にいるのは短い時間ではありますが、私はモーツァルトの音楽を聴く時と同じ姿勢でいることに気付いてはっとしました。その心地よく心弾む自然感覚はモーツァルトの音楽そのものが大自然の一部に限りなく近く、1000回でも繰り返し続けて聴いても飽きない様に、虫達の音楽もまた一晩中聴いていても飽きることはありません。私は虫達の音楽に教えられて、モーツァルトは大自然の摂理に叶った作曲の出来る人類史上で唯一の作曲家であるとの認識に到達することが出来ました。虫の音楽もモーツァルトの音楽も、その共通の特長は何時まで聴き続けていても飽きる事が無いということであります。神は千年に一人の天才作曲家を人類に与えられたのでありますが、もう千年先まではモーツァルトと並ぶ天才は現れないことでしょう。自然界の摂理に叶うモーツァルトの音楽は将に人類の至福であります。小さい虫達が私にその事を再認識させて呉れたのです。
さて、私がジャズタウンに深く係わっていることに疑問を呈する人が多いのですが、私がジャズタウンのお世話をしているのは二つの理由があります。一つは昨年召された長女がこよなく
ジャズを愛好していたからであります。長女はサックスのマウスピースを買ってきて、夜中に近所の電話ボックスの中で練習してみたり、折りたたみ椅子の様なドラムの練習台を一日中叩いたりしていました。ジャズに傾倒するあまり神戸から貨物船に乗り、ニューヨークに密航する計画を実行しようとした事もありました。サキソフォンを買ってやり、ドラムスの小さいのを用意したり、ニューヨークへ連れて行ってやること位どうして出来なかったのかと悔いてももう遅いのです。今年のジャズタウンでは8月18日の主会場でのフィナーレに、世界的なドラムスの名手、猪俣猛先生が客席へ高く放たれた二本のスティックの内の一本がカメラを置いた直後の私に向って一直線に飛んで来ました。幸運にも私はそれをダイレクト・キャッチすることに成功しました。猪俣先生がわが娘の為に投げて下さったと言っても良い程の幸運でした。この様な幸運は二度と有り得ない事でありますし、猪俣先生も滅多にはしないと話されていました。こうして、娘の願いは私がジャズタウンを全国で唯一の純粋なジャズが聴かれるジャズフェスティバルに存続・成長させる事に尽力することで少しでも叶えられて娘の供養にもなるかも知れないとの思いからであります。もう一つの理由は即興演奏の出来るジャンルは現代ではジャズだけであるということであります。クラシック音楽ももう一度原点に返って出直しをする必要があると考えて来ました。音楽愛好家の楽しい家庭コンサートや即興演奏が出来る環境を復活したいとの願いが日増しに強くなって来ました。ジャズにだけ残されている即興演奏の醍醐味を鑑賞することは、私の音楽研究に多いに役立っているのです。今年のジャズタウンに初出場されたトロンボーンの向井滋春さんの超絶技巧による魂を揺さぶる演奏には万来の拍手と歓声が上がりました。クラシック音楽では基本的な形式を踏まえた上での即興演奏がモーツァルト先生の時代の様に復活出来れば、音楽がどれだけ身近で楽しくなることでしょうか。その日の再来を長らく夢見て来たのです。
ところで今夜は虫達は如何しているでしょうか? 先ほど庭に出て見ると一段と賑やかに演奏していましたが、今夜初めて気がついたのですが、頭上のセンダンの木の葉の中からも聞えていました。この木は我が家の二階の屋根よりも高く聳えていますので、庭の平面の草叢と併せて、将に
球形劇場となっています!今夜の演奏は昨晩のとは異なっていました。まだ一匹毎の音色を聞き分けるまでに時間を投入していませんが、何日も朝まで聴きつづければ、或いは固体識別法が可能になるかも知れませんね。夜半を過ぎれば虫達の演奏も佳境に入り、モーツァルトの協奏曲を弾くウィーン・フィルの演奏を遥かに超えていると言えるでしょう。今夜も我が家の庭では虫達のコンサートが最高潮に達しています。私もこれからモーツァルトの全作品を新しい順番に聴き続けることに致します。先月まではオペラはCosi Fan Tutte、協奏曲はファゴット協奏曲変ロ長調、フルート協奏曲第一番ト長調、第二番ニ長調とオーボエ協奏曲ハ長調等を繰り返し聴いていました。何れも名曲中の名曲なので中々先へ進めません。本当に嬉しい悩みで幸せを感じている毎日であります。本当に何時になれば128枚のCDを全て聴き終えることが出来るか、全く予測が立ちません。言えることは一つだけ、「始めなければ終わらない」と言う事ですね。

莫札特聴けば聴くほど奥深し、妙なる調べいのち育む!

The 250th anniversary of Mozart's birth commonly be listened and growing life !

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1 Sept 2002

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"New Standard Music Dictionary " 1991 Ongaku no tomo sha

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