モーツァルト:「コシ・ファン・トゥッテ」(4)

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Ky-086

W. A. Mozart : "Cosi Fan Tutte"

村山先生、今晩は!今日は1974年8月28日にザルツブルク音楽祭で上演されたカール・ベーム指揮のウィーン・フィルハーモニカーによる「コシ・ファン・トゥッテ」のライブ録音版を聴いた感想をご報告致します。今から28年も前の記録ですが、少しも古いという感覚はありません。現実に今上演されているかの様な見事な演奏であります。2000年2月にアルノンクール先生によって、チューリッヒで上演された記録をこれまでの最高水準と考えていましたが、1974年のカール・ベーム満80歳の誕生日にザルツブルク音楽祭で上演された今回の記録の方が流石に一枚上にあることを認識致しました。それは指揮もさる事ながら、やはり歌手の差異から来るものでもあります。フィオリテリージにグンドラ・ヤノヴィッツ、ドラベルラにブリギッデ・ファスベンダー、グリエルモにヘルマイ・プライ、フェランドにペーター・シュライアー、デスピーナにリレ・クリスト、ドン・アルフォンソにロランド・パネライと勢揃いされては現代の歌手達ではどうしても太刀打ちは出来ません。因みに通奏低音奏者は、チェンバロのヴァルター・タウジッヒが担当、合唱はウィーン国立歌劇場合唱団、指揮はヴァルター・ハーゲン・グロルの皆さんでした。8月28日と云えばベーム自身の誕生日であり、あの文豪ゲーテの誕生日でもありますね。
グンドラ・ヤノヴィッツのフィオリデリージは伸び伸びと歌い切って、歌っている年齢は2000年版のチェチーリア・バルトリと余り変らないと思いますが、声色も歌唱力も遥かにグンドラ・ヤノヴィッツが超えていました。「フィガロの結婚」のロジーナを歌っても気品が感じられる様に、フィオリデリージを歌ってもその気品が十分に感じられました。フィオリデリージの歌う有名な長いアリア「恋人よごめんなさい」でも、ヤノヴィッツは難なく歌い切って、バルトリの最高の歌唱力を遥かに超えていました。ブリギッデ・ファスベンダーのドラベルラは、ファスべンダー特有の鋭いメゾ・ソプラノが舞台をつき抜ける様でした。2000年版のリリアーナ・ニキテアヌの可愛い妹役の好演を軽く超えていました。「薔薇の騎士」や「こうもり」の男役までもこなせるファスベンダーの歌唱力は立派という他はありません。グリエルモ役のヘルマン・プライとフェランド役のペーター・シュライアーに到っては、2000年版のオリヴァー・ウィドマーとロベルト・サッカの熱演も偉大な先輩歌手達には遠く及ばないのは無理からぬことである。20世紀の最高の歌手達を揃えた歴史的な上演記録は誠に貴重なものであり、後に続く若い歌手達の遥かな目標になる事であろう。デスピーナ役のリレ・クリストも無理なく女ピエロを歌い切っていた。2000年版のアグネス:ヴァルツァはベテラン故にクリストとは全く別のデスピーナであり、優劣の問題ではなく個性の問題である。同じくロランド・パネライのドン・アルフォンソは、2000年版のカルロス・ショーソンのドン・アルフォンソとは別の歌唱であった。
指揮とオーケストラもまた対照的である。1974年に80歳の完熟したカール・ベームと2000年版の71歳のニコラウス・アルノンクールの指揮振りも全く別の世界と言うべきである。アルノンクール特有のあのバネ仕掛けの様な弾ける躍動感は、80歳のベームの指揮にも既に現れている。テンポの速さにおいて、ベームが若いアルノンクールに遅れると云うこともない。他のモーツァルト作品を指揮する時のベームのあの重厚なテンポは、1974年の「コシ・ファン・トゥッテ」においては十分に速くまた軽く飛んでいる。ウィーン・フィルとチューリッヒ歌劇場管弦楽団との比較では、2000年版のチューリッヒは小編成であるのに対して、1974年のザルツブルクでのウィーン・フィルは大編成ながらウィーン・フィルのあの繊細にして華麗な音色の薫りを十分に感じさせる演奏であった。小編成のチューリッヒはアルノンクールによるマジックによって大編成並の音響を実現して鋭さを感じさせるが、音色の美しさにおいてはウィーン・フィルに迫るには道程は遠いと感じる。チューリッヒ歌劇場は狭いためか、反響音が固い感じがすると思います。
モーツァルト時代から世界の音楽の都を自認するウィーンのオーケストラにしてこの音色ありと言わなければなりません。その差は3時間近くに及ぶこのオペラ全編を聴き終わった後の爽やかさがどちらのオーケストラから来るかはご説明には及ばないでしょう。今日は芸術には「上には上がある」と言うことを改めて知りました。自分の見聞の狭さに恥じ入るばかりのご報告となりました。「先人の業績ほど高く見える」のは歴史の常でありますが、「それを超えたい」と言う高い目標を持たなければ、誰も永久に先人を超えられない事も確かでありますね。

歌声と妙なる調べよく響き、男と女いつもかくあり!

Cosi fan tutte a comedy of man and women with wonderful song and music !

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25 APR 2002

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Mozart Opera "Cosi Fan Tutte" Karl Boehm Wiener Philharmoniker in Salzburg 1974

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