無音空間と音間空間

music forum

Ky-080

Asonia ed Intersonia

村山先生、今晩は!三月も半ばを過ぎ桜花爛漫の季節も間近となりました。今日は常日頃、音について考えては解決のつかない疑問についてご報告致します。後日に何らかのヒントを頂けたら幸と存じます。
以前にこのフォーラムでカラヤンとメニューインが音と音の間の空間(
音間空間)が音楽における再現において最も重要であると対談しておられましたね。この音間空間と言えども単位時間で換算すれば、0.001秒の次元の事でありましょう。音楽の時間的流れであるテンポの微細な変化が0.01秒の次元とすれば、音間空間は更に短い時間単位で動くと仮定出来るでしょう。音間空間とは文字通り音と音の間に間が抜けないことが大事という意味に受け取っていましたが、この問題は考えれば考える程難しく奥の深いテーマであると気付きました。更に音符の時系列が進行する時には指定されたテンポで演奏されるのですが、劇的表現の為に次に有るべき音符の位置に音が無いとどうなるか?人の対話でも、感極まって声が出ないことがある様に、音楽でもそこにあるべき位置に音が無いという場合が有り得るのであります。それは作曲においても、テンポの変化と共に有るべき位置の音を出さない事によって、より劇的な表現を試みることはあっても良いと考えるのです。これを無音空間と呼んでおきましょう。音を省略するのではありません。音が出ないというか、音を出せないと言う方がより正確でしょう。それも何回もあると云うのでは無く、全曲の中で有っても一回か二回までの事であります。再現にあっては有るべき音符の音を出さないことは演奏ミスでありますが、感極まってその音が出せなかったのは出すより劇的効果が遥かに大きい結果も有り得るのであります。将に「その時音無きは音有るに優る」という格言が示す通りであります。また作曲においてその様な高次元の配慮が出来れば、その作曲家は抜きん出た存在とも言えるでしょう。作曲家は自己の作品に関しては実際の演奏が出来ることが必要であります。それは出すべき音を出さない事によって、より高次元の芸術的表現を試みる過程において達成されるべき至上の喜びであります。ここで大切な事は、無音空間が突然現れても音楽の流れであるテンポは乱れてはならないと言う事であります。そこに音が無くても音楽の流れは途絶えることなく流れに乗っていなければならないからであります。河は堰き止められてもその流れが止む事は無いのと同じであります。
音の無い空間を無音空間と申しましたが、リズムの欠如する空間を
無拍空間と呼んで見ましょう。無音空間と無拍空間とは一致する時もありますが、一致しない時も有り得ます。音の無い時は拍がないのは当然の様に思われますが、無音の音が有るように、無拍の拍もまた有り得るのであります。有るべき拍を表現しない事によって、その拍の存在を暗示する事も可能なのであります。無拍空間は日本舞踊においてはよく見られるのではないかと思われます。日本の音楽と舞踊は無拍を好む傾向がありますので、この点が西洋音楽とは異なる体系を形成して来ました。摺り足を基本とする日本舞踊は世界の舞踊と比較しても見るべきものがあります。それに加えて元来は序破急とテンポが終わりに近づく程速くなるのが汎アジア的なのですが、日本に伝わると速度は上げずに緩徐に推移するテンポに落ち着く様ですね。其れゆえに西洋の舞踊に日本的無拍性を取り入れると、より深みのある舞踊に変身出来る可能性があると予測されます。また、逆に日本舞踊にも速いテンポを一部取り入れることでより躍動的な踊りが再び誕生するとも考えられますね。
音楽のお話に戻りますが、名作の名演奏ではテンポも音間空間も決まっていますね。その微細な変化によって単調な曲でも気がつけば妙なる変化と内的表現が決定的なことが分かります。それは少なくとも百回以上聴き込まないと気付かないことではあります。また同一の名曲も指揮者と演奏者が異なれば、その表現が全く別のものであることに驚かされます。世阿弥は「
風姿花伝の書」で、舞台での表現について最も深い示唆を既に600年も前にその極意を語っています。世界で最初の本格的な舞台芸術論として世界の演劇史上に冠たる位置を占めているのであります。このことは日本人の大きな誇りであり、21世紀以降の日本においても世界水準を超える舞台芸術が生まれる可能性があると信じる所以であります。

微かなる音なき音を聴かば聞け、聴くこと無しに弾くあたわずや!

Listen to the soundless sounds you can not play without complete listening !

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15 MAR 2002

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世阿弥 「風姿花伝の書」 (著述期間 1400−1433)

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