「三国志」と「太平記」

music forum

Ky-079

"Sangokushi" and "Taiheiki"

村山先生、今晩は!春三月とは言え、まだ寒い日もございますが、桜が既に咲いている地域もあるとの由、今年もまた桜の季節を迎え様としています。私自身のライフワークである「わがニ都物語」の取材のために、1991年度のNHK大河ドラマ「太平記」と人形劇「三国志」の全記録を2週間をかけて10年振りに視聴しました。ベータ版VTRテープで25本、再生時間は合計で75時間もあります。「三国志」と「太平記」を比較しても舞台は中国と日本、時代は3世紀と14世紀と異なり、また歴史的スケールは比較も出来ませんが、共通する点はどちらも戦乱の世を物語っている事であります。どちらも実際の歴史に取材して物語を書いている事も共通点であります。夜に日を次いで視聴した感想と当時の音楽についての情報も幾らか得られました。「三国志」の方は、1982年から1984年にかけてNHKの制作によるもので、3世紀の中国の音楽情報はありませんでしたが、1991年の「太平記」の方は14世紀の日本の音楽に関する情報は多少とも得られました。
物語の方は、誰しも良くご存知のことなので、省略致します。まず、人形劇「
三国志」の方は人形故に人が演じるドラマよりも現実と夢を結合した素晴らしい作品でした。人形浄瑠璃が歌舞伎より迫力があるのと同じく、この人形劇は恐らく戦後最高の作品であるとの印象を受けました。原作は明の羅貫中の「三国志演義」、日本語訳は立間祥介(1928年生、慶応大学教授)、脚本は田波靖男、小川英、四十物光男の皆さん、音楽は桑原研郎、主題曲は細野晴臣、歌は小池玉緒、人形は川本喜八郎さんの制作で、声優では、諸葛孔明の森本レオの声は素晴らしいの一語に尽きる。如何なる困難な状況下にあっても冷静さを失わず、可能な限りの最善の策と次善の策を用意出来る神懸りの劇的表現を的確に発声した。千田光男の張飛、玄徳の谷隼人、関羽の石橋蓮司の他に、伊佐山ひろ子、長谷直美、田坂都、岡本信人、松橋登、三谷昇の皆さんで何方も最高の演技を声で表現された。オペラばかり見てきた私には、人形劇「三国志」は素晴らしく夢と現実をリアルに表現して、小さい人形達がオペラの舞台以上の演技をしていました。この体験は私のオペラ制作に大きい影響を与えました。
NHK大河ドラマ「
太平記」(1991年度)の方は、原作は吉川英治、脚本は池端峻作、主な配役は、足利尊氏に真田広之、その妻登子に沢口靖子、盟友佐々木道誉に陣内孝則、弟の足利直義に高島政伸、母清子に藤村志保、執事高師直に柄本明、その兄高師泰に塩見三省、楠正成に武田鉄矢、その妻久子に藤真理子、北畠顕家に後藤久美子、その父北畠頼房に近藤正臣、新田義貞に根津甚八、その弟脇屋義助に石原良純、後醍醐天皇の側室阿野廉子に原田美枝子、田楽舞の花夜叉に樋口可南子、白拍子藤夜叉に宮沢りえ、尊氏の嫡男足利義詮に片岡孝太郎、藤夜叉との間の子足利直冬に筒井道隆、足利家の家来一色右馬介に大地康雄、細川顕氏に末次晃嗣、桃井直常に高橋悦之、後醍醐天皇に片岡孝夫の皆さん。この年の大河ドラマは脚本、音楽、演出、配役もみんな素晴らしい出来映えであったが、主演の真田広之の演技にも大きい進歩が見られた。妻登子役の沢口靖子は美しくも健気な将軍の妻を見事に演じ、日本美女の典型的なその美しさは群を抜いている。弟役の高島政伸は兄尊氏に対する反発心を良く演技した熱演であった。柄本明は高師直を演じて優れていた。執事として代々足利家に仕えた誇りと将軍を超えたいと内心願う危うい演技を熱演した。楠正成を演じた武田鉄矢は負け戦を覚悟で後醍醐天皇の為に殉死したが、「美しいものの為に死すのは、負け戦とは言わず」との信念を地で表現した。佐々木道誉の陣内孝則は派手なバサラ大名を演じてピエロ役としてドラマの要所を締める好演であった。後醍醐天皇の片岡孝夫は稀代の帝王を重々しくも人間臭く良く演じたと言えよう。後藤久美子は男役ながら北畠顕家という貴公子を華やかに演じた。原田美枝子は後醍醐天皇の側室として政事の権謀術策に加担する抜け目のない女性を演じきった。近藤正臣は武家を見下した当時の貴族の気位を精一杯演じたと思う。宮沢りえも田楽舞の白拍子を地で演じたのであろう。その他の役者達も何れも好演したと評価できる。
さて、肝心の音楽情報でありますが、
田楽舞は何度も登場したので、音楽と踊りの衣装は大変参考になった。後白河法皇が編集された「梁塵秘抄」にある今様「冠者はねもけにきんけるや〜」という有名な歌を、尊氏の前で田楽一座の車引きに化けて逃げ延びる楠正成役の武田鉄矢が見事に舞って見せた。建武の親政の世となった京の宴で尊氏が楠の真似をして舞って見せるのも面白い。また、謹慎中の佐々木道誉が自邸で自棄酒を飲みながら、「舞え舞え蝸牛〜」というざれ歌も面白いと思いました。太平記の時代は能として完成する直前の田楽や猿楽が花盛りであったので、貴族の雅楽と白拍子の今様と共に日本の芸能の花園の様な時代であった。現代日本の芸能の起源は全てこの時代に萌芽して開花していたのであります。それ故にこの時代の音楽を考証して、ライフワークのオペラ「わがニ都物語」の舞台に幾つか登場させようと考えています。日本音楽の伝統の生まれた時代を紹介するとともに、21世紀以降の日本の音楽と芸能はどの様に発展する可能性があるかを暗示したいとの希望からでもあります。それをイタリアからの文化使節であるダンテの子孫に語らせたいとの設定であります。また、物語とは主人公の生まれてから死ぬまでの事を語るのが物語と言う事も再確認出来ました。生まれてから成長するまでの事を略す時に、「今は昔、何処何処に男(女)ありけり〜」と書くことも思い出しました。その名も「今昔物語」という日本文学の起源であり宝庫である物語集をご存知でしょうか。近現代の日本では芥川竜之介の様に、「今昔物語」に取材する事が多くありました。「太平記」は「平家物語」と共に日本の二大戦記文学であり、声明の影響を受けて琵琶の音色に載せて謡い歩く吟遊詩人を産み、後世の日本文学と芸能に大きい影響を与え続けたのであります。当時の音楽は楽器の数も少なく、屋外で演じられるのを基本として、その簡素な構成と即興演奏は現代の日本音楽のルーツとしてもっと研究されて然るべきであると考える。

もろこしの英雄たちは今もなお、詩に芝居に舞台は狭し!

Kongming Xuande Guanyu Zhangfei Caocao deng yueguo le wutai dao Lishi zaiyan !

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11 MAR 2002

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