秋の虫の音楽

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Ky-068

Multi-Tempo Song of Autumn Worms

村山先生: 今晩は!秋の夜長を如何お過ごしでしょうか? 先ほど庭に出てみると秋の虫が一杯鳴いていました。月は出ていませんが星は一杯出ています。北極星やカシオペア座は直ぐに分かりました。オリオン座はこの季節には0時前には見えません。秋の風も吹いていて星の光も瞬いていました。ところで、今までは虫の声も何気なく聞いていたのですが、オペラの制作を始めてみると音楽性のある音には何でも敏感になっているのに気付きます。その気になって聴くと、何と虫の声の音楽が素晴らしいか解ります。音色だけでなく、その声のテンポが皆異なるではありませんか!その事に気付いて我を忘れて聴いている自分を再発見しました。一匹ずつの虫の声は似ている様でもメロディーが微妙に異なります。また、そのテンポは全て異なりますし、一匹も同じテンポの者はいません。それらが奏でる交響曲は将に「多元的テンポ」で構成している高度の音楽ではありませんか。モーツァルトでさえ作曲出来なかった音楽です!メロディーとテンポが異なるのに全体としては調和が取れているのです。つまりは、「非調和的調和」の世界であります。虫の声の音楽は、鳥の声の音楽とはまた異なるものであります。虫の声は鳥の声より遥かに単純な旋律の反復により構成されています。鳥の声は人間の声にも似て変化は大きいのですが、虫の声は何時まで聴いていても朝まで変りません。其れでいて、一つの庭が虫たちの演奏会場になっていますが、そこには小宇宙が存在しているとしか言い様がありません。
人間が作曲した音楽に多重のテンポの元に成立する音楽が嘗て有ったでしょうか?ショパンの様にテンポを繊細に変化させた作曲家はいました。モーツァルトもオペラの場合に歌のテンポを細かく指示しました。重唱や多重唱にしてもテンポだけは統一的に表現して来ました。しかし、自然の小さい作曲家である虫達は、いとも簡単に多元テンポの音楽を一晩中奏でています!村山先生、我々はこんな音楽を作曲出来るでしょうか? 例え作曲出来たとしても、誰が演奏出来るでしょうか。尊敬する天才的指揮者であられるアルノンクール先生が、「
芸術は自然の一部である」と言われる意味がようやく解って参りました。また、「芸術が無くなれば、人類も滅ぶ」と!
秋の虫達が毎晩奏でている「
多元テンポ的音楽」を私達のオペラ制作に生かせる処は無いでしょうか? イタリア語オペラの不自然なレチタティーヴォの改革に、もしかしたら秋の虫たちが私達に何かのヒントを与えて呉れているのではと予感しています。二人から四人ぐらいの人物が同時にレチタティーヴォを歌う場合はよくありますが、テンポは同一でした。秋の虫の音楽はバラバラのメロディーとテンポで歌いながら全体としては見事に調和しています。「多元テンポによる非調和的音楽」は虫の声が私達に示唆している、人類にとっては全く新しい音楽かも知れません。作曲でお忙しい中、暫しの休憩を取って頂き有難う御座いました。現代音楽の「無調的音楽」の次に登場するのは、この「多元テンポによる非調和的音楽」かも知れませんね。(拝)

13 Oct

蝉あらし天を覆いて迫るとも、一人のひとを守りて進む!

Even when cicada chorus covers the sky, I'll march foward protecting only one !

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秋の虫の声による音楽 2001 Autumn

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BGM: Mozart Serenade by Collegium Aureum 1970

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