オペレッタ 「奥様女中」

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Ky-057

Giovanni B. Pergolesi : La Serva Padrona

村山先生、今夜も大変な発見で夜も眠れない程の衝撃を受けています。モンテヴェルディに続いて衝撃を与える作曲家は、同じくイタリアのジョヴァンニ・ペルゴレージです。1710年に生まれ、肺結核のために26歳の若さで1736年に亡くなりました。我達のモーツァルトが生まれる丁度20年前のことでした。この方もきっと天才の一人に相違ないでしょう。1733年に作曲された「奥様女中」は僅か40分のオペレッタですが、同年の彼の正歌劇「素晴らしい囚人」(Il Prigionier superbo)の幕間の軽歌劇として制作されたものでした。幕間劇はインテルメッツォと呼ばれていますが、日本では能に対する狂言に相当する短い喜劇です。そして、この「奥様女中」こそ軽歌劇の元祖となる歴史的な作品なのであります。軽歌劇の元祖であるというだけなら、それほど驚くこともないのですが、この「奥様女中」は登場人物が三人しかいないのです。これぞ私達がこれから実験制作しようとする「三人オペラ」(Opera Trioの元祖でもあります。1600年頃に誕生したオペラの歴史において、133年後のことであり、モンテヴェルディの「ウリッセの帰還」より96年後のことであります。また、モーツァルトの「魔笛」の初演より58年前のことであります。登場人物は独身の貴族ウベルト、その女中セルピーナと使用人のヴェスポーレの三人だけであります。物語は独身期間の長い貴族のウベルトは女中のセルピーナの言いなりにになるほど頼りにしているが、奥様然とあれこれ命令するのが気に入らない。事ある毎に逆らって反対のことをするセルピーナに我慢がならない。そこでウベルトは出掛けて妻を探してくると言うと、「門を閉めて追い出してしまうと」言われてどうすることも出来ない。そうかと言ってセルピーナと結婚するとも言わないので、一計を案じて使用人ヴェスポーレを癇癪持ちの騎士に仕立てて、「この人と結婚するので持参金を下さい」と言うと、癇癪持ちの騎士が「持参金か、それともセルピーナと結婚するかどちらかだ」と剣をちらつかせるので、金が惜しいのとセルピーナをそんな癇癪持ちにやるわけには行かないと思い、セルピーナと結婚すると約束してしまうという他愛もない喜劇ですが、登場人物が三人しかいないことに注目しています。出演はウベルトにドナート・ディ・ステファノ(B)、セルピーナにパトリチア・ビッチーレ(S)、ヴェスポーレにステファノ・ディ・ルカでこの役は無言でもあります。シギスヴァルト・クイニン指揮のラ・プティート・バンド(小編成の楽団・初演は弦楽四重奏)で1998年の制作です。三人だけのオペラでは、歌手その人次第ですから、大変に難しい役でありますが、二人の歌手はベテランなので、見事に歌い演じて見せました。この「奥様女中」はその後は独立して上演される様になり、1752年にイタリアの一座によってパリで大成功を収めたので、フランスの軽歌劇派とイタリアのインテルメッツォ派との「ブッフォンの戦」という歌劇史上の有名な事件として記録されています。何事においても「歴史上で初めて」という事は並大抵のことではありません。「奥様女中」から268年が経過しましたが、現代のミュージカルの起源もここにある訳であります。
21世紀のオペラ音楽は何処に行こうとしているのかを、明確に提示できる音楽家は世界に何人いるでしょうか。私達は未来を展望しようとすれば、まず過去の歴史を辿らねばなりません。過去からの長い歴史の流れの上に現在という瞬間が乗っているだけでありますから、未来への展望は歴史の研究からしか生まれないのであります。豪華複雑になりすぎたオペラもその原点はこのように最もシンプルなところから出発していたのです。オペラはその昔、花の都フィレンツェで「カメラータ」という仲間達が集まって、ギリシャ悲劇を復活しようとして1597年にヤコポ・ペリによって史上初めてのオペラ「ダフネ」が誕生しましたが、現代では楽譜が失われています。第二作になる1600年の「エウリディーチェ」が楽譜の残っている最古のオペラとなっています。ヤコポ・ペリは歌手でもあり、10月6日にフィレンツェのピッティ宮殿で初演された時は、オルフェオの役はペリその人が歌いました。オペラの歴史は現在丁度400年を経過したところであります。これからこの総合芸術である音楽劇がどの方向に向ってどの様に発展して行くかは、まだまだ定説はありません。しかし、こうしてオペラの歴史を研究して行くと、自ずから一つの方向だけは見えて来ます。それは今一度「原点に返る」ことであります。21世紀の初頭に生きている私達の世代によって、あらゆる実験と創作を繰り返して22世紀への橋を架けることが私達の歴史的使命であることには相違ありません。ミューズの女神よ、願わくば我達に遠くを見る眼と音なき音を聴く耳を与え給え!
(1 May 2001)

見返りの姿麗しわが姫は、近寄り難く香しきかな!

Beautiful back style of Her Princess refusing any approach in flavour !

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文献 : 歌劇大事典 音楽の友社 1962

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