オペレッタ 「こうもり」

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Ky-036

J.Strauss : Die Fledermaus

オペレッタは通常は喜歌劇として、比較的小さい劇場で上演されることが多いのにヨハン・シュトラウス(二世)作曲の「こうもり」は、正規のオペラ劇場で上演される数少ないオペレッタとして有名です。今回視聴したのは、1986年12月31日にバイエルン国立歌劇場で上演されたライブ録画によるもので昨年DVDとして配給されたものです。指揮はカルロス・クライバー、バイエルン国立歌劇場バレエ団、同合唱団、バイエルン国立管弦楽団、演出はオットー・シェンク、配役はガブリエル・フォン・アイゼンシュタイン(地主)にエーベルハルト・ウェヒター(br)、ロザリンデ(妻)にパメーラ・コバーン(sp)、フランク(刑務所長)にベンノ・クッシェ(bs)、オルロフスキー公爵(ロシアの大金持ち貴族)にブリギッテ・ファスベンダー(al)、ファルケ(こうもり博士)にヴォルフガング・ブレンデル(br)、ブリント(弁護士)にフェリー・グルーバー(tn)、アルフレート(ロザリンデの恋人役)にヨーゼフ・ホプファーヴィーザー(tn)、アデーレ(ロザリンデの召使)にジャネット・ペリー(sp)、イーダ(アデーレの姉)にイレーネ・スタインバイザー(sp)、フロッシュ(牢番)にフランツ・ムクセネーダー(語り役)、イヴァン(オルロフスキー公爵の下男)にイヴァン・ユンケル(語り役)などの出演でした。
題名の「こうもり」はこうもりの復讐という意味とのことで、昔にアイゼンシュタインにつけられた「こうもり」という綽名で恥をかかされたのをファルケが仕返しをするという喜歌劇です。三時間足らずの三幕のこのオペレッタは楽しいことこの上なしで、あっという間にハッピーエンドで終わります。また、
前奏曲が素晴らしく、これを聴いただけでこのオペレッタに惹きつけられてしまいます。前奏曲は三幕を通じて歌われる美しいアリアと合唱をメドレーしたもので、実際にオペレッタ進行の随所にそれぞれのメロディーが聞こえてくると心もうきうきして踊り出したい様な躍動感を覚えます。あらすじは、公務員への侮辱罪で五日間刑務所に入るはめになった主人公のアイゼンシュタインが、弁護士の手違いで更に三日追加された憤りを弁護士と言い争う場面やロザリンデが主人が出掛けた後でアルフレートと食事などをしていると、刑務所長フランクが迎えに来てアルフレートを主人と間違えて逮捕して帰る場面などが第一幕にあります。ところがファルケがアイゼンシュタインを除いて全ての登場人物に偽の手紙をおくり、第二幕のオルロフスキー公爵邸での舞踊会に公爵の同意を得て密かに招いたのでした。それを知らない当事者達が、お互いに偽名で出会ってとんでもない結末になるという見ても聴いても面白い仕立てになっています。第三幕では酔っ払って帰り夜勤をしているフランクのところへ当事者全員が集まり、どんでん返しの後に「全ては冗談である」とのファルケの証言で一同丸く収まるという物語ですが、この他愛もない物語を実に素晴らしい音楽が見事に盛り上げてくれます。ロザリンデとアデーレの役は高度な歌唱力を要求される役であり、ハンガリーの侯爵夫人としてパメーラ・コバーンが舞踊会で歌う「チャルダーシュ」は素晴らしい歌と踊りを披露してくれます。また、オルガという偽名で出席したアデーレ役のジャネット・ペリーも共にアメリカ出身の歌手ですが、高度なコロラトゥーラによる確かな歌唱力を発揮していました。パメーラ・コバーンは、このロザリンデの役を歌って1982年同じくカルロス・クライバーの指揮でミュンヘンでデビューしました。
オルロフスキー公爵役のブリギッテ・ファスベンダーは男装役のベテランで、数々の男装役をこなした演技力の非凡さを見せていました。言わば、このオペレッタの進行役といった役柄ですが、金持ち貴族の退屈さを「蒙古人曰く」とか各民族の格言を即興的に入れて、場面を最高に楽しくしています。第二幕で繰り広げられる舞踊会は、チャルダーシュやポルカなど、さすがにウィーンのワルツ王だけあって、ヨハン・シュトラウスの面目躍如たるものがあります。オペレッタの本領である舞踊音楽の楽しさを100パーセント以上発揮する華やかさと楽しさを兼ね備えるために、この「こうもり」と「ジプシー男爵」は正規のオペラ劇場で上演されるとのことであります。
村山さんはミュンヘンやウィーン、プラハ、ブダペストなどへ行かれたことがおありでしょうか。私は残念ながら仕事が休めないので定年退職までは何処にも行けませんが、このヨーロッパの中央緯度線上にある歴史的な音楽都市に憧れて来ました。北のベルリンや南のイタリアの共に重厚な正オペラは正統派ですが、ウィーンやミュンヘンの様な軽快な舞踊音楽の楽しさにより親しみを感じます。これらの都市のオペラの楽しさは将に天才モーツァルトの
巨大な遺産から来るものと信じます。モーツァルトはオペラとオペレッタを区別せず、オペラに会話の台詞をとり入れて、自ら「ジングシュピール」と呼んでいました。私の聴きたい四大オペレッタとは、以前にご紹介した「チャルダーシュの女王」の他に、この「こうもり」、同じくヨハン・シュトラウスの「ジプシー男爵」、レハールの「メリー・ウィドウ」ですが、後二者はまだDVDを入手出来ていません。繰り返し繰り返し聴いて原作者や作曲家の想いに迫りたいと願うのが私の唯一の鑑賞方法なのですが、オペラやオペレッタだけは一曲が三時間近いので、とても百回聴くところまでは行けません。そこで、音楽と映像を10回視聴した後は、映像を消して音楽だけを更に何回も聴くという方法を取っています。アリアを聴いてはその場面を思い出すのも興味深い聴き方の一つと思います。しかし、オペレッタもオペラと同じく、第一次世界大戦以降には見るべき作品はなく、オペラと同様に既に歴史的作品のみになっています。ミュージカルにバトンを渡したオペレッタは、これからの音楽の新しい歴史にはもう再び登場しないのでしょうか。もし、そうであれば本当にさびしい限りですね。「喜劇は悲劇よりも難しい」という諺がありますが、オペレッタに関してもオペラと共にまだ滅んではいないと思いたい今日この頃です。
(7 Jan 2001)

歌詠みのこころも知らずわが姫は、返歌なきとて送り続けん!

No return song from Her Princess, but I'll continue to send my heart of poet !

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文献 : 歌劇大事典 音楽の友社 1962

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