この にそえて ・・・ no.49


  

 コケラ・・・ 樹を伐る時に出る木くずをコケラというらしい。

   室町時代に書かれた三国伝記にコケラにまつわる粟の巨木の物語がある。

   近江の栗太の郡という所に、とてつもなく大きな粟の木があって

   樹下に一国を影する程の巨樹なので、一帯では田畑の稔りが大変悪い。

   そこで相談の上、この大木を切り倒してしまおう、ということになった。

   しかし、いざ斧で刈ろうとして幹を刻んでも、翌朝には又元通りに切り口が繋がっている。

   これは栗の大木が樹の王であるため、諸々の草木が夜の内にコケラを集めてくっ着けている

   せいで、何度切り込んでも草木は毎夜セッセと幹を直し続けているのだ。

   ここで「いざ我も」と、はせ参じたカズラだったが「お前のような樹でも草でもないものがけしからん」

   と、草木に追い返されてしまった。怒ったカズラはこのコケラの秘密を人に漏らしてしまう。

   そうと知った人々がこのコケラを燃やして木を切り始めたから、栗はとうとう倒されてしまった。

   「あなどるカズラに倒れづる」

   昔から、神木には折れた枝葉や木くずにまで霊力がある、という信仰があったそうだ。

   上のコケラはやや大げさでも、ほんの小枝の先一本でも芽があると見事に根付いてしまう。

   一度、桂のヒコバエの先をとって、試しに鉢に植えたらすぐに根を張って大変驚いた。

   それで「お杖付きの樹」というものも、あながち迷信だけではないのだろうと、その時思った。

   今はクローン技術などというハイテクがあみ出されて、実用段階にもあるようで、それからすると

   コケラの話もにわかに真実味を帯びてくる。

   樹は幹になんらかの損傷を受けると直ちに樹皮を巻き込んで、やがて傷口を塞ぎ込んでしまう事

   がある。 一つにはその不思議さをいった話かもしれない。

 


永渕神社の杉 目通り7.5m/樹高34m/枝張り15m/高知県大豊町永渕

《 吉野川沿いの国道から、山上に立つ独特の樹影がよく見える。根元の半面には損傷があり、大きく口を開けて空洞を生じている。

その中に細かい木屑や、お札のような物も投げ込まれていた。枝葉が炎のように逆立った樹影は山中に際だっている。 数値不確 》


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