この にそえて ・・・ no.29


   

 桂・・・ 月には桂の樹が生えているという。 中国の言い伝えで、月の事を月桂とも呼ぶが、なぜそうなのか

  はよく知らない。カツラには2種類あって、それぞれ日本と中国に1種ずつ。 だから月にあるのは中国にある桂

  の方だろう。 巨樹は幹が多株状に密生した合体木の様子が殆どで、他種の目通り周囲とは比較対照にできな

  い。 ヒコバエ(幼樹)を無数に纏う姿は特徴的で、どこかしら銀杏樹とも少し似通った所があるようだ。麗な水を

  好むようで、樹の根元を探せばおおかた近くに石清水が流れている。ただ不思議に思うのは、大きな樹はいつ

  も1本だけか、せいぜい2本ぐらいの単一で忽然と山中に立っている。その周辺には若木もあまり見られない。 

  工芸品の彫刻材やピアノの鍵盤、またカヤに次ぐ碁盤の材料としても重用されているというので、ある所にはあ

  るのだろうが、それらはおおかた早くに伐採されているのだろうか。

  桂と聞けば、少し高貴な印象を抱く事もあるのだが、それは京都の桂離宮からくるイメージだろう。 桂離宮は江

  戸時代の四親王家の一つ桂宮の祖、八条宮智仁親王の別荘として造られた。 桂宮は十一代の淑子内親王で

  断絶し、幼少で亡くなられた親王も何人かいたそうだ。山中で身を寄り添うにして独立する桂の巨樹を見た時、一

  種独特の雰囲気が漂っていると感じたのはそのせいか、それとも葉から出るという甘い香気のせいでもあったの

  だろうか。


出石寺の桂 目通り11.7m/樹高17m/樹齢500年/愛媛県長浜町出石山・出石寺参道