「ポピー」
  
     
 これもスタジオでの撮影である。
狭い室内でのセット撮影は、どうしてもこじんまりとなってしまう。 
写真学生の実習は、ほとんどがスタジオでの撮影になるが、果物など
の静物写真を撮らせると、まるで小座敷の真ん中にネコが鎮座してい
るようなスケ−ルの小さい写真を撮る者が出てくる。「いい若者が、
こんなちっぽけな写真を撮ってどうするんだ」とハッパをかけること
になるが、これはその素材の外形だけに捉われ小さなテ−ブルの上だ
けででっちあげようとするからである。                 

そんな時、私は写真史上の偉大な先達であるエドワ−ド・ウストンの
「ピ−マン」の作品を見せる。それはテ−ブルに置かれた食物として
のピ−マンではない。暗いバックに溶け込むように一個のピ−マンが
写っているだけだが、この作品はピ−マンを通してはるかな宇宙を思
わせるような迫力のある作品である。つまり、物の見方と構成力の違
いである。学生たちに言いたいことは、例えこの狭いテ−ブル上であ
ってもその物を通じて自分の世界(自分の哲学)を造形(表現)せよ
ということである。  
                        
 これは私への戒めでもある。空間の処理は難しい。融通無下、物
 に従った空間がある。私はいつも1インチ角といえども空間が余
 白とならぬよう心掛ける。なお、向かって左上と中ほど上下のあ
 わせて3つの花は、表現をやや強めるために、別個にピン・スポ
 ットでアクセントをつけてあることに気づかれたであろうか。 
                                
バックは氷壁をイメ−ジするために、半透明のディフュ−ザ−に凹凸
をつくり、青紫色の照明で立体感と濃淡の色合いをつけ、ピントのは
ずし加減に注意した。
  

       
                            

         「ピ−マン」   エドワ−ド・ウエストン     画像をクリックすると   大きく見られます。