東人の新居浜生活/近郊の観光地新居浜市内/つづら淵

つづら淵


 2008年6月4日、環境省が「平成の名水百選」の選定結果を発表した。
 愛媛県では唯一、新居浜の「つづら淵」が選定された。
 
 「平成の名水百選」の選定基準は、水質・水量や水利用、保全活動の状況など7項目にわたる計24の細目について、配点方式による基本審査を行い、その結果を踏まえ総合評価したもので、昭和60年に選定した「(昭和の)名水百選」に選ばれたものは今回の選定対象から除外されたとのこと。
  
 
 
 
 新居浜市指定史跡のつづら淵(葛淵)は、新居浜市若水町2丁目にあるという。
 若水町のどの辺か探して、99年3月末で閉店したダイエー新居浜店(現在のマルナカ)の東側駐車場の奥に位置する場所で確認した。南側の道から葛淵に続く細い路地があり、そこからつづら淵まで行ける。
 隣の西条市には、うちぬき水の湧き出る所がいくつもあるが、新居浜でも、ここ葛淵で、水が湧き出していた。
 現在のつづら淵は、石で作られた祠から水が出ているが、石の構造物の中からモーター音が聞こえたため、ポンプで汲み上げているようだ。
 
 つづら淵には奈良時代を起源とする神竜伝説があり、日照りには笹ヶ峰から持ち帰った水を注げば竜が雨を降らせると伝えられる。
 若水町という町名も、つづら淵から由来する。
 つづら淵では、正月の7日の早朝に「若水くみ」という行事がが行われる。泉からわき出る清水を年男が汲んで氏神に奉納、無病息災を願う伝統行事であり、年男が汲み上げた水は樽に詰められ、台車に乗せて一宮神社に奉納され、一宮神社の宮司が淵の清水を神前に献上。新饌(しんせん)を調理する行事とのこと。
 
 

(つづら淵の石碑より)
 
 昔このあたり一帯は沼地であって、みずみずしい葭が茂りその一部に一きわ清く清水をたたえて池状を呈し 岸のほとりに一本の青柳のゆらぐところ、そこが「葛淵」である。
 こんこんと霊水の湧き出るこの泉、 ここには古来幾多の物語が伝えられ、神聖な霊泉として里人の信仰を集めていた。
 一宮神社に関係のある神の泉として毎年正月七日の早暁、体を清めた宮司がこの霊泉のほとりに祭場を設けて、祓詞を奉し霊泉の水を汲み、この水を神に供し、この水を用いて神餅 調理するのであった。
 このことから後世この町の名を若水町と呼ぶようになったものである。
 又この泉は雨乞いの霊地とされ、ひでりの際は笹ケ嶺に登り 日月の池の神水を汲んで持ち帰り、この水を葛淵の神龍に捧げて祈念すれば直ちに雨を賜ると云われて、いよいよ農民の信仰を集めていったのであった。
 また歴史の上では、この「葛」は新居の「津倉」のなまったものと考えられている。
 奈良朝から平安、鎌倉時代にかけてわが新居の庄は、東大寺、法隆寺などの寺社或いは佐々木盛綱などの武家の荘園であったが、これら荘園所領者は、収納米を保管するために船積みに便利なこの「葛淵」あたりに倉庫を設けて「津倉」と呼んでいたものと推定される。
 又正平二十二年 予章記にもみえる「新居津倉淵」といふのは、当時現在の「葛淵」あたりに設けられてあった倉庫でその津倉淵が次第に訛って「つづら淵」と呼ばれるようになったものである。
 
 

 
 
 
新居浜のむかしばなし(平成元年2月「新居浜のむかしばなし」編集委員会編 新居浜市教育委員会 発行)より
 

 昔々、石錠山の神さまが、近くの笹ケ降へ登った。この山は石鎚とちがってなだらかで、頂一帯はクマザサが生い茂る美しさに、しばらく滞在し、山の八合目に住居所をつくり、近くへ「日月」の二つの池をつくりました。この池の水は清く澄み美味な水でした。
 神さまは、「こんなにいい水を、里人たちにも味わわせたいものだ。」と考えられ、小石を拾い「この石の落ちた所へ、日月の池と同じ水が出るように。」と唱えながら力一杯投げると、新居浜浦の山の南側に落ちて池となり、次いで石を投げると、山の東側に落ちて池ができた。
 三度目は三メートルほどもある石を「もっともっと浜辺の方に大きな池ができるように。」といわれ投げると、底知れぬ深い池ができて、美しい水が湧きあがった。「あの水は、浜辺に近いから、辛味があるに違いない。しかし、真水ばかりよりも、御飯を炊くと、とてもおいしいだろう。」とたいへん御満足になった。
 
 里の人たちはたいへん喜んで、最後の池を「薦淵」と名づけた。
 ある年に、大日照がして、田畑の作物が枯れそうになり、雨ごいしても一粒の雨も降らず困りはてて、 みなで相談の結果、「笹ケ峰へ登って雨ごいをしよう。」と決まり、葛淵の水を「ヒョウタン」に汲み、山に登り日月の池に水をうつし、下山の時は日月の池の水を「ヒョウタン」に汲み、蔦淵へ「日月の池の水を龍王さまのおみやげに持って帰りました。」といって、池に入れお祈りしますと、にわかに大雨となり、田畑の作物も草木も生き返った。
 それからは、大日照の年には、葛淵の水と日月の池の水を交換して、雨ごいをするようになったといわれている。
 いつの頃からか、葛淵の水は一宮神社のご神水として、正月七日の朝に神前に供えられるようになった。
 今も葛淵の岸には、川ヤナギが生い茂り、池の中にはサカナがたくさん遊泳している。
  (伊予路の歴史と伝説・愛媛の伝説 合田正良 一宮神社官司 矢野峯義稿)
 
 

近郊の観光地/市内