何もかも忘れ、
この不幸な私を、
父上は愛して下さるでせう
芙美子
父上様
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娘から父へ
この記念碑は、作家として日本文学史にその名を残す林芙美子が、東予市新町出身の父、宮田麻太郎氏に大正13年12月に書かれた手紙の一文節であります。
この手紙については、二人の関係を研究されていた竹本千万吉先生の著書「人間・林芙美子」で紹介はされていましたが、今回、父と娘の関係を多くの人々に知っていただくために記念碑として設置いたします。
残念ながら麻太郎氏の生家は、取り壊されていますが、新町の新福寺にて宮田家の墓地にしのぶことができます。
手紙の全文は次のような内容です。この手紙を読み親子の絆を感じていただくきっかけになればとおもいます。
大変御無沙汰しました。私もあさってでもう廿三にならふとしてお
ります。
長いこと会ひませんが御変りありませんか、只今東京の方におりま
す。色々な苦労をなめ、それでも私は元気よく生活しております。
母はやはり父の方におります。私は一人でこちらにゐるのです。
随分長いこと音信もなく、現在血を分けた父のありかもしらないでゐる私でした。 先日下関の方にかすかな記憶をたどって出してみたところ、わかりましたので手紙をかく事が出来ました。
何か商売してゐらっしゃいますか。貴方はいつも元気ですから安心してゐます。
私も只今は小説だの子供の童話なぞかいて、まあ、私一人位はすごしております。 東京の方にお出の節はお立寄り下さいませ。寒さの折から、御体お大切に祈ります。
一月か二月に詩集を出したいと思ひますが、何分貧乏で仕方がありません。きっと偉くなりますからみてゐて下さい。
ほんとうに力強く闘って行きます。今こそ野中にたった一本の身ノ上なんです。人間と云ふものゝあまりたよりにならない世に、私は私自身を資本に勝負をしなければならないのです。
体だけは元気です。ご安心下さいませ。
何もかも忘れ、この不幸な私を、父上は愛して下さるでせう −御自愛を祈ります。
御一家様によろしく、さよなら
卅日
芙美子
父上様
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