「魔笛」 (2)

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Ky-039

W. A. Mozart : Die Zauberfloete (2)

CSのClassica Japanを契約しましたところ、早速のオペラ番組は幸運にも「魔笛」でした。1992年にBaden−Badenの音楽祭で上演されたもののライブ録画です。Ludwigsburger Schlossfestspieleという音楽祭で、この名の古城で企画された音楽祭ですが、この公演の演出は現代的な抽象画の様な手法が用いられています。王子タミーノの服装は全て白色に統一されて、シカネーダーのオリジナル台本の通り、日本の狩衣を纏っています。その下には恰も柔道着の様な上着を着て、日本式の帯をしめている。ズボンは何と日本の鳶職がつける膝から下を絞ってあり、長いブーツを履いて登場。しかし、狩衣は「右前」になっていて、日本古来の慣習の研究が足りないようです。夜の女王は巨大なペティコートの様なものを着けて上半身だけを上に出して色は全体としては青色で「夜の女王」を表現している。女王が出てくるときは幻灯機で月と星を背景に映し出す。その娘パミーナは全身青色のガウンを着ていて、金髪が良く似合う。ザラストロは高僧なので頭は「坊主頭」で彼の部下も全員が坊主頭で白いガウンを着ているが、ザラストロ自身は黄色のガウンを着ている。いささかトルコ式のデザインを思わせる筒型の衣装であります。女王の三人の侍女は、実にモダンなデザインで赤いタイトなボディースーツに青い衣を纏っている。胸の左半身だけを青い衣から露出させて現代的な感覚で表現している。ムーア人のモノスタトスは全身真っ黒で虎の皮模様のガウンを着ている。鳥刺しのパパゲーノは、頭に鳥の鶏冠をつけ、額に長い嘴をつけている。大きい白色の膝までの吊ズボンを着て短い靴を履いて登場する。三人のボーイソプラノは二人は上半身は裸で白い吊ズボンを着用し、登山帽のようなものを被っているが、一人だけ上半身に白く薄い肌着を着ているのは何故か、最後まで意味が分からない。パパゲーナは初めは80歳ぐらいの老婆の縫いぐるみを着ているが、最後にはそれを脱ぎ捨てると18歳の若い娘に変身してみせる。
舞台は比較的狭く白いプラットホームが全ての演技の舞台となる。例えば、登場人物が左右の裾から出入りする他、背面からもカーテンを潜って頻繁に出入りする。プラットホームの何箇所かには昇降できる穴があり、突然その穴から歌手達が消えることもある。開幕直後に出てくる大蛇の胴体は黄緑色で舌と牙は赤い色の模型で表現されている。初めは王子を脅かす様に天上から迫るが、三人の侍女に打ち落とされると、頭の部分だけを逆さにプラットホームに固定する仕掛けになり、消えるときは突然白いプラットホームから下に消える。ザラストロが行う宗教的な儀式は白いプラットホームの一隅を折り曲げて三角形を表して赤い絨毯と赤い三段のお立ち台で表現する。三人のボーイソプラノは初めに鳥の形の空中ブランコに乗って登場する。舞台上のセットの切り替えは、照明を完全に消して真っ暗の中で素早く取りかえる。
前回にご紹介した1983年のミュンヘン公演は、王子が狩衣こそ着ていないが、演出は伝統的且つ写実的であり、多額の費用が必要であることが分かります。今回のバーデンバーデン公演はデザインは現代抽象画的であるが、予算が初めから足りないことを証明しています。ミュンヘン公演の場合は大蛇も等身大の縫いぐるみが舞台上で不気味に這って来て王子に迫る情景から始まりました。各登場人物も古典的な正装で現れ、三人の少年達も揃って同じ服装で登場します。夜の女王のペティコートも自然な大きさで伝統的な衣装でした。バーデンバーデンのルートヴィヒスブルク城の演出は最小限の予算で最大の効果を上げようとする苦心の作でしょう。その簡潔なドイツ的なデザインと色彩感覚は多いに学ぶところがありましたが、やはりミュンヘンの場合のフルサイズの演出(
アウグスト・エヴァーディング)が遥かに正統的で原作に忠実であることは言うまでもありません。モーツアルトの同じ音楽が流れてくるのに、舞台上の演出がこんなにも異なる表現が出来るとは本当に不思議に思えて来ます。まるで別の作品かと感じる程に大差があります。
因みに、今回の公演の出演者は、タミーノにデオン・ヴァン・デア・ヴァルト、パミーナにはウルリケ・ゾンターク、ザラストロにコルネリウス・ハウプトマン、夜の女王にアンドレア・フライ、パパゲーノにトーマス・モール、パパゲーナにパトリチア・ロザリオ、モノスタトスにケルヴィン・コナース、三人の侍女にエリザベト・ホワイトハウス、マリーナ・サンデル、ナディア・ミカエルその他です。演出は
アクセル・マンティ、指揮ヴォルフガング・ケンネンヴァイン、ルートヴィヒスブルク城音楽祭管弦楽団と合唱団。二人の演出を比べて見るとやはりアウグスト・エヴァーディングの方に軍杯が上がるのは当然のことですが、予算がない、人がいないという条件下ではアクセル・マンティのような演出方法も止むを得ないこともあるでしょう。しかし例のドイツ現代風のシンプルで幾何学的な色彩感覚には重厚さはなく、紙細工のような軽さを否めません。この様に色々な演出が出来ることは、発表以来200年になるモーツアルトの「魔笛」が時代を超える普遍性を有する名作中の名作であることを証明する結果にもなりました。しかし私自身は狭く小さいルートヴィヒスブルク城の舞台より、本格的なミュンヘン国立歌劇場でのフルサイズのオペラの伝統的な演出の方を基本として重視します。この例の様に演出の多様性を引き出せる作品こそ正に古典の王者であると言えるでしょう。こうしてモーツアルトの「魔笛」の様に200年以上も生き続けるオペラ作品は稀有の存在でありますし、モーツアルトの偉大さを再認識させて頂きました。
(24 Jan 2001)

楊琴の妙なる調べ聴こえかし、君がこころの開かれんかな!

Listen to the transcendental music of Yangqin, hoping your mind be open to me !

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CS Classica Japan broadcasting 22 Jan 2001

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