この 樹 にそえて ・・・ no.55
オオカミ・・・ かつての森の豊かさを物語る象徴として、オオカミがいた。
日本には北海道にエゾオオカミ。 それ以外にはニホンオオカミが各地に生息していたそうだが、明治時代に絶滅
してしまった。 その原因は定かでないという事だが、文明開化とともに山からオオカミが消えてしまったという事が
何かを鋭く示唆しているように思えてしかたがない。
日本書紀の「欽明天皇記」に、秦大津父というものが二匹のオオカミが喧嘩をしている所に出くわしてこれを仲裁
したという話がある。 その子孫の秦氏はその功あってか大いに出世を果たしたそうだ。
オオカミは熊とともに山を支配する神の使いであって、その名もやはり大神からきたものだろう。 物語ではよく悪
者にされているが、これはその恐れからくる役づけであって、恐れは畏れでもあった。 武器の進歩とともに、この
恐れ畏まる感情がヒステリックに反発して、執拗なまでに狩り尽くした事は想像できる。
子供の頃に、シートン動物記の「オオカミ王ロボ」という本を夢中になって何度も読み返した事を思い出す。
おそらく森林オオカミという種類だったろうか。ロボのような大きなものは体重が80キロ近くもあるらしい。
それが時速60キロ近くで走ってくる。巨大なヘラジカやトナカイなども倒してしまうというからその力も凄まじいものだ。
日本のオオカミはそれよりかなり小さかったようだが、武器を持たずに森で出くわしたら、さぞや怖かっただろう。
以前友人が「お爺さんか曾祖父さんが、山で捕まえたオオカミを暫く縄で繋いで飼っていた」という話をしてくれた。
なんとも豪快なような昔話の面白さを感じて笑っていたが、事実そんな時代があったのだ。
それもたかだか百何十年か前までは。 もう四国の山にもオオカミはいなくなった。
伊勢丸明神宮の杉 目通り7.3m/樹高60m/枝張り11m/高知県物部村伊勢丸・明神宮
《 国道195号線から暫く山道を進み、南東の山中にある神域の杉。手前に小川があり、梢は高く社叢から抜きんでている。 》