この 樹 にそえて ・・・ no.252
又道のカエデ・・・ 霊峰の麓、杉林の切り開かれた後に藪が茂り、一本の大きなカエデが残されている。
目通り周囲5mの大きさから察すると、おそらくはイタヤカエデだろう。これぐらいでも四国では既に最大級の巨木だろうと思われる。
登山道からは100mあまり離れているが、この道は既に灌木と藪で埋まっており、急斜面を移動するのは只事ではない。なぜなら
掴るもの殆どに鋭いトゲがある。上げるスネやヒザに、これでもかとツタのトゲが食い込む。よろめいて縋り付いたのはトゲのあるタ
ラの類。数歩移動するにも疲労して、傷だらけで泣きそうになった。ようやくたどり着いた樹の根元には砕けたような石が散乱し
元は小さな祠か何かがあったのかもしれない。全身にツタを纏っているが今は樹勢も良く、四方に広げた大枝にたくさんの葉を茂
らせていた。なぜこの樹は残されたのだろう。これだけの樹だから前に誰かが祠を祀り御神木として守っていたのかもしれない。
また一大決心して斜面を帰る途中、ポッカリと草木の無い1畳程の空間があり、乾いた泥の中にヒズメの跡があった。さっき会った
カモシカの寝床だろう。よくもまあこんな所を平気で行き来するものだ。垂直に近いような所もスイスイと上っていく。自然の前で生
身の人間はいかに弱いものか痛感した。何度も驚かせて申し訳なかったが、もうここには来ないでおこう。
又道のカエデ ・・・目通り周囲 5m/樹高20m(目測)/徳島県、三好市