このところ、造形の入口付近の話ばかりがが続いたので、一休みする意味で話題を
かえて今回は、仏像写真について少しばかりお話することにした。
ちょうど、「写された国宝」展が東京都写真美術館で開かれており、普通はここだけで終
わるが、この企画は内容が貴重なもので、1年以上をかけて全国4か所でも展示される。
展示のほとんどは仏像写真で、1870年代からの記録的写真から現代まで、年代を経る
につれての作家性による変化が見られる。
古くは小川一真、小川晴暘、比較的新しいところでは土門拳、入江泰吉、坂本万七、佐藤
辰三、藤本四八など、仏像写真のトップクラスの作家たちの代表作の原画が一堂に並び、そ
れぞれ写真家の個性を競う表現が見られ、地味ながら一見の価値があると思った。
私が一時、奈良県観光課の嘱託を依頼されていた25歳当時の作品も「作家性の芽生え」
というところに4点が展示され、光栄の至りというところだが、私はこれら拙作を材料に、
記録的表現から個性的表現への心理的プロセスを述べ、それがどのように作品に現れたかを
解析し、先輩たち仏像写真家の個性的表現の理解・鑑賞への一助になればと考えた。
私に依頼された県観光課の希望は、図録にのせる記録的要素のかなり強い写真で、これを
組み立て暗箱カメラのキャビネ乾板で撮った。写真はすべて納入され、手元には1枚もない
が、これらにはまったく未練はない。
ある日、脳裏に天平時代の仏像の原形が蘇った時からは、記録的要素の強い写真撮影で私
が満足するはずがなく、私はそこからはみ出しはじめた。4点の作品は自分が仏像から感じ
とった気持を強く表現したくて、乾板撮影のわずかな合間をみて自分の35ミリカメラで撮
ったもので、資料が少ないのが残念である。
私の意図と表現は各作品の感想文から、その一端はお分かりいただけるかと思う。
[ 会期・会場 ] 東京都写真美術館 2階展示室
東京都目黒区三田1−13−3 Tel 03−3280−0031
2000年11月21日(火)〜2001年1月28日(日)
◎以後、2002年3月10日まで、全国各地で開催する。
|