展覧会というものは、おもしろい。沢山の写真を撮っていると、映像にはかなり強い
と思っていても、印象深く脳裏に残るものは数少ない。ところが、展覧会に出品した作
品の数々は、本物といった印象で隅々までよみがえり浮かび上がってくる。
でも、それはただある満ちたりた時間があったことの思い出、そのとき自分が生きて
いた証拠だけが充満した瞬間への追憶が大きいかもしれない。
ぼくが、「展覧会というものは、おもしろい」というのは、若いころ関西の前衛写真家集
団、丹平写真倶楽部に所属したことによると思う。
四国の田舎で中学3年ころから写真をはじめたぼくは、写真の展覧会を見たこともなく、
半切・全紙という印画紙のあることも知らなかった。ぼくがはじめて見た丹平の月例会はす
べてが全紙での出品で、サイズの大きさによるボリュ−ムと内容のすばらしさに言葉も出な
いほど圧倒された。
やがて、奈良に住む会員の藤井辰三氏の暗室作業を見せてもらい、中古の引伸機を買い込
んで3ケ月後には何とか全紙のプリントができるようになった。しかし、ズブの素人といえ
るぼくには、35ミリのネガから大きな引伸しへのコントロ−ルはかなり難しかった。
覆い焼き・焼き込みには苦心惨憺、粒子の粒々にまで愛着を覚えたその原画が、広いデパ
−トの展覧会場に並べられた時の作品としての存在感は、ぼくにとっては写真雑誌の印刷に
よる小さな口絵などとは、全く次元の異なる感動があった。
先輩たちの全紙の作品も、それぞれ手作りのクセがあり、個性あふれる印画の違いがハッ
キリ現れていて楽しいものであった。とにかく、画面サイズの大小、印画紙と印刷やパソコ
ン画面との違いは、体験しないとわからない。
ぼくが色々な展覧会に出品した作品は、すでにこの講座にかなり掲載してきたので、今回
は講座を連続して見ている人には、制作の過程でそれらのバリエ−ションの展開がわかるも
のを主として選んでみた。そんな選択をしているうちに、ふと気がついたことは、そのおお
よそがぼくたちのグル−プ展、つまり日本広告写真家協会展(APA展)に出品したものだ
ったということであった。
展覧会には、公募展・グル−プ展・個展などいろいろ特色があるが、APAのグル−プ展
などは協会のト−タルとしての力量も問われ、成功率を考えてリ−ダ−たちはテ−マの選択
にもずいぶん気を使う。下手をするとゴッタ煮かドングリの背比べにもなりかねない。
一方APAのメンバ−は、日頃の広告写真では新鮮味もなく、会場では埋没してしまうの
で、コマ−シャルを離れ、自由奔放な作品を展示できるチャンスでもある。
ぼくの場合も、グル−プ展はお互い八方破れで腕を競う場と心得て、振り返れば毎度締め
切りに追われながらの試行錯誤、ああでもない、こうでもないと根をつめて仕上げたものが
作品になっていたようだ。
今回も作品の技法は、軽く触れるにとどめ、思い付くままの感想を述べることにする。
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