「カトレア」
       この撮影セットは、80センチ四方位の台で作られ、こうした撮影を
    テ−ブル・トップ・フォトという。
  
  素材としてのカトレアは最重要。その選択で成否が決まる。一日かけて都内6ケ所
 をまわり、10個を買ったが気にいらず、ようやくパレス・ホテルで入手したのがこ
 の花である。いわゆる典型的な形の良さだけではおもしろくない。アンバランスのよ
 うでいてギリギリのバランスがとれたものには力強さがある。
    
  砂は花との大きさとの比例から、極く小粒子のものを選び、花が反映する水たまり
 はクロ−ムメッキの金属板を敷き込んである。砂丘の凹凸の変化には意外と手間がか
 かる。デリケ−トな花びらにマッチする砂山の微妙な表面は柔らかい筆で作るが、最
 後は息を吹きかけ、砂を飛ばしながら仕上げる。
   
  バックの雲はもちろん本物ではない。アクリル板に後ろからブル−のカラ−ゼラチ
 ンをかけて照明し、その上にピン・スポットという小型のスポット・ライトによる雲
 状の照明で作られている。
   
  小道具箱はこうした仕事では宝物である。日頃から海や山で拾い集めた「石ころ、
 貝殻、流木、木の実、海草の干物、分解されたレンズ、壊れた歯車、動物のミニチュ
 ア、稲穂、ビ−玉、鳥の羽根、etc。変わったところでは、ブリリアンカットのダ
 イヤモニアなど」。ゴミ箱のようなものだが、これらを眺めていると次へのアイディ
 アがひらめくこともないことはない。       
   
   ところで、いつも小道具(アクセサリ−)の選択には、細心の注意を払う。もとも
 と架空のシ−ンであるにしても、僅かひとつの小道具の選択の間違いが、いかにも嘘
 っぱち、こけおどしのお遊びといったシ−ンになってしまうからである。