「若女」

 ミス・ユニバースやミス・ワールドコンテストでのミス・フォトジェニックの
ような幾何学的なバランスとは全く異なる。

 ややおでこで鼻の幅は広い。眉毛は額のはるか上にありながら不思議に感じな
い。少しはれ目で切れ長の二重。不思議な魅力のある顔である。といってこんな
顔のモデルは写したことがない。やはりこれも一種の抽象形であろう。
 私は初めてこの面に接した時、その妖しい美しさに夢幻の世界を垣間見たよう
な気がした。

 能面を写すとき、ライティングによる表情の変化が激しいが、特に注意するの
は目の表情である。節穴のように見えたらもうどうしようもない。白目や歯をあ
からさまに出すと幽玄の面影は消え去る。
 能面は観客にたいする表玄関でもあるオモテであり、能役者はその能面のウラ
の暗闇のなかに姿を隠している。黒バックを選んだのもそのためであり、控えめ
に抑えに抑えた採光である。
(白バックでストロボ一発で撮った場合を想像すると明白であろう)

 面をつけると、本物同様の小さな目の穴の奥からは、足元はまったく見えず、
初心の能楽師は舞台から落ちるという。