ストロンチウム90
 この作品は、かわいい少女の
頭に小鳥を乗せた横顔を撮り、
レントゲン写真をモンタ−ジュ
したが、レントゲン写真はグロ
テスクにならぬよう少し小さめ
に入れてある。       
画面上部の黒い点々は死の灰を
イメ−ジしたもの。   
    
「9876543210」は、
原・水爆の実験開始時のカウン
トである。
     

「 ストロンチウム90 」
  これはAPA展で「公共社会」をテーマとした集団制作への出品作。
      
 第6回APA展は、各地区の会員たちが10数名づつブロックを形成して、それぞれ特定
の企業や商品のイメ−ジづくりを行い、作品を集団制作でまとめる方法をとるという特色あ
る展覧会が行われた。
      
 僕は、児童問題をとりあげた「公共社会」を選んだ。
 その頃は、ちょうど世界各国が原・水爆の実験、開発競争に明け暮れた頃である。   
そこで、僕は原爆の核分裂の際に生産されて地表に降下するストロンチウム90をテーマに
した。つまり、「原・水爆の実験反対」である。                  
     
 原爆の核分裂に伴うストロンチウムは、半減期28年の放射性同位元素。カルシウムと同
族で骨や歯に沈着して放射能をだしつづけ、白血病や骨髄ガンの有力な病原物質になる。
 厚生省発表によるデ−タ−では、ストロンチウム90の体内蓄積量は、8歳の子供は16
歳の子供の12倍にもなるという。骨格形成途中のこどもにあたえる影響は特におおきい。
「この現実を無視してこどもたちの幸福を願うことができるであろうか。」というのが僕の
主張であった。
       
 しかし、この集団制作展は不発に終わった。
以下は、僕のこの作品を掲載した「芸術新潮」1966年10月号の批評である。(原文のまま)
       
『「公共社会」という集団制作を出品したチ−ムだけが、普段の職人的な環境から抜け出し
て、積極的にひとつの提案を試みているのが注目された。しかし、この場合も冒頭の玉井瑞
夫のカラ−が、テ−マ追求の姿勢をシンボリックに表していて、鮮やかな印象を与える出来
栄えを示しているにもかかわらず、あとの会員が分担した画面がそれに続いて発展しないの
で、全体としてはテ−マが十分に消化されていないうらみがあったのは残念である。』
               
 僕は文化史が好きなために、こうした社会性のある作品の制作にはことさら熱中するが、
他の会員とは熱意のバランスがとれず、集団制作の難しさを痛感し、以後APAのこうした
参加はとり止めた。                                
 ただ、4年後の大阪万博では、この作品を認めた岡本太郎氏のチ−ムに参加を依頼され、
テ−マ館に「矛盾」というタイトルで、高さ3メ−トル、長さ30メートルと20メ−トル
という特大の壁写真を制作することになった。