演劇「流転の人」
平成12年7月15日(土)には今治市中央住民センター4階大ホールにて演劇「流転の人」(もうひとつの放浪記)が超満員の観客を集めて成功裏に上演された。二幕7場の約2時間30分のこの演劇は、東予市の町作りの特別事業として取り組まれた。キャストはすべて地域のボランティアで構成されており、また東予市少年少女合唱団の参加も光った。
脚本・演出は林邦庄氏、原案は
資料の頁に報告されている様に二人の著者の出版物から採られている。

劇評
林邦庄氏の脚本・演出は林芙美子自身に物語らせる形式でドラマが進行した。第二幕第7場では、芙美子親子の最後の面会となったが、玄関を開けようとしない麻太郎と芙美子が玄関のガラス扉越しに短い会話で終わるが、フィナーレにふさわしい演出である。玄関の外にいる芙美子に麻太郎は厳しくもやさしく言葉を投げつける。麻太郎のシルエットが印象的であった。
第一幕第4場では、女学生の芙美子が尾道から久しぶりに麻太郎の家(現在の東予市新町)を訪ねる。祖父の葬式の時であったが、親戚の人たちとの交流もあり、近くの丘に登って皆で「
城ヶ島の雨」を歌うのが印象的であった。この場面は「放浪記」の中で再現されている。御簾の様なクロスのすかし模様の向こうで歌う、東予少年少女合唱団は幻想的で効果的であり、観客の感動を呼んだ。また、終章に及んで再び同合唱団が出演者全員と共に「りんごの歌」を歌うフィナーレの設定であるが、芙美子の没した戦後初期の時代を代表する歌謡曲でもあり、その時代を回想させるには効果的であったが、果たして芙美子親子の物語の終章としては、もう一度「城ヶ島の雨」の方がより効果的ではないかとも感じられたが、大方の観客の感想も聞いてみたいところである。
第二幕第6場で下関に向かう山道で、足の不自由な娘さんに麻太郎が説教をする場面があったが、麻太郎の芙美子への愛情とダブらせる演出がほしいと感じた。「
私にも娘が一人いる」という台詞を聞きたいと思った。また、第6場はすこし長すぎるとも感じた。
何はともあれ、東予市の記念事業の記念碑的な成功を心よりお祝い申し上げる。出演者の方々は十分に練習を積まれて、それぞれが最高の演技をされたと実感された。
間の取り方が少し長い目に感じられたが、これも却って新鮮味でもあった。不慣れなカーテンコールには微笑ましさも感じられて、アマチュア劇団のプロにはない新鮮味が魅力であった。特に少年少女合唱団の子供たちは素晴らしかった。関係者ご一同様の並々ならぬご努力に敬意を表したい。
今は亡き、
故竹本千万吉先生には最高の供養になりました。先生の奥様もきっとお喜びのことと察し申し上げる。(平成12年7月15日H生)

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