毎日新聞兵庫版 2000年4月29日朝刊掲載記事から
神戸市イスラム礼拝堂・・・『増える日本人ムスリム』
金躍日の昼過ぎ、神戸市中央区のイスラム礼拝堂「神戸ムスリムモスク」で集団礼拝が行われていた。集まったのは約l50人。人種や肌の色、服装はバラバラ。日本人の姿も見える。イマーム(導師)による説教が始まった。静まり返ったモスクにアラピア語が響く。「アーミン」。イマームの祈りの言葉に低いつぶやき声が一斉に応じる。イスラムの聖典・コーランの一節が読み上げられると、人々はひざまずき額を床につける。イスラムの礼拝、サラートだ。
同モスクでは、ムスリム(イスラム教徒)になる宣言(シヤハーダ)をする日本人が増えている。「5年前は月1人だったのが、最近は3〜5人ぺースになっています」と、モスクに併設されたイスラム文化センターの講師サルワさん(38)=改名=は説明する。
同市垂水区の私立大非常勤講師、ヤスミーンさん(42)=ムスリム名=は3年前、ムスリムに。「学生特代にイスラムの歴史を勉強したので知識はあったが、自分には関係ない世界と思っていた」。それが、アラビア語を学びにモスクに通い、イマームがコーランの最終章を読むのを聞き、信仰心が芽生えたo「これが真実だと直感した。海から釣り上げられた感じとしか説明できない」と話す。悩みや不満があったわけではない。ただ、日蓮宗を熱心に信仰していた祖母から、「人に隠れて悪いことをしても天は見ている」と言われ続けでいた。「何でも自分の思い通りという現代の風潮とは、自分は少し合わないな、とは思っていた」と言う。
同市中央区の大学院生、サルマーンさん(23)=同=の場合は、パングラディシュに留学生の友人を訪ねたことがきっかけ。「貧困に初めて直面し、生活の違いにショックを受け、悩んだ。現地で教えを知り、目に見えない唯一の神(アッラー)に服従し、その前では平等で、よい行いをすれぱ来世で救われるという内容が合理的だと思った」ムスリムは、酒やギヤンブル、豚肉、婚前・婚外交渉など禁止されていることも多い。2人とも実行できるか不安で入信までl〜2年かかったが、慣れたという。サルマーンさんは「ムスリムだというだけで貧富の差や国籍に関係なく通じ合え、他人とは思えない信頼関係を築ける。酒を飲まないと本音でしゃべれない以前の友人関係は表面的だったと気づかされた」と満足気に語った。集団礼拝が終わり、モスクの外のあちこちで談笑の輪ができた。サルワさんは「イスラムの教えを守ると自然に家庭が一番楽しい場になる。ムスリム同士でお互いを忘れず助け合うのが教えの特徴。忙しく、家庭でも個人の世界に入ってしまう今の日本で、家庭でも社会でも強固な人間関係に魅力を感じる人が多くなってきたのではないでしようか」と指摘した。
毎日新聞兵庫版 2000年4月29日朝刊掲載