A. ARAネクタイ ポスター
これは、B全ポスタ−の原画。
ネクタイが実物の3倍近い大きさで、雲を小さく表現しているので、ネクタイのある大風
景に見え、相当の迫力がある。こうしたシンプルな構成にすると、見る位置の遠近にかかわ
らず印象は強い。これはポスタ−の基本的な必須条件である。このポスタ−は、デパ−トで
の展示会用に作られたが、若い人たちの頒布希望が多かった。これだけ大きなネクタイを壁
に貼ると、部屋の雰囲気も変わるだろう。
撮影のセットでは、ネクタイの裏面に型紙を入れ、それに張りつけた太めの銅線でカ−ブ
をつけ、黒い板ガラスに掛けてある。
バックの装置は、アクリルのマット(くもりガラス状)を垂直に立て、その後ろに水平な
台があり、その上に全紙大のクロ−ムメッキ板が置いてある。これに更に後ろから数台のピ
ン・スポットで照明し、クロ−ムメッキ板を曲げると雲状の反射光がバックのアクリル・マ
ットに現れる。雲の色変化はピン・スポットにつけた舞台照明用カラ−・ゼラチンによる。
B.C. ARAネクタイ
これは、月刊誌用の原画。
これが基本的な構成で、毎号ネクタイと球体への画像を変えながら、強固で安定した表現
を心掛けた。ネクタイの色とシャ−プさと質感には特にこだわり、ネクタイへの照明は細か
く、4台くらいのピン・スポットが使われている。
球体はバレ−ボ−ル大の石膏で作られ、バックのアクリル・マットから水平に伸びた鉄棒
で支えられている。球体の画像は、右下方から6×6版のプロジェクタ−でカラ−スライド
が投影されている。B.はニュ−ヨ−クの夜景を高所から撮ったもの。C.は、フランス、
ロンシャンのル・コルビジェの教会の窓のスライドである。
制作年度により、カラ−スライドは人物のスナップ・ショットや風景、彫刻など変化させ
た。もちろん、このスライドも日頃から撮り貯め、モデル撮影もした。
バックの雲は、セットを少し変えて雲の形を変え、球体とネクタイの照明、スライドの投
影、バックのみの3段階に分けて露光をしている。
D. ARAネクタイ E. ARA雑誌広告
球体は、年度により多角形(14面)に変えたこともあったが、最終の1年間はデザイナ
−の希望もあって、こうしたまったくシンプルな三角形にもしてみた。
A.B.C.は、合成に見えるが、まったく手のかかるストレ−トなアナログ撮影。
D.E.は、ネクタイ、三角形、バックとそれぞれ別個に撮った3枚のポジをマスキング
で合成した実験作、CG風を試みたものといえよう。
ぼくは、やはり手数はかかるが、A.B.C.の方が好きである。
ARAネクタイの広告は、シンプルをモット−に、コピ−も、<E>で見るように、
『優しさと、そして強さと。男の香り。』という、だだそれだけで、商品写真だけ
での勝負であった。
ところで、ネクタイの色については、おもしろい話があった。
織物によっては、撮影時に偏光で実物とはややかけはなれた発色をすることがある。そん
な時は、プロなら偏光フィルタ−で矯正するのが一般である。
このシリ−ズを始めて1年後くらいだったが、そのネクタイは現物より偏光した色合いの
方が遥かに良かったので、ついぼくは偏光フィルタ−なしでも撮っておいたが、それをうっ
かり渡してしまい、印刷にまわされてしまった。
ところが、これが大当たりで注文が殺到した。メ−カ−は色ちがいの現物を渡すわけには
行かず、この写真にあわせて急ぎ織り直した。怪我の功名ということで会社側からは笑いな
がらの礼をいわれたが、ぼくとしては、それだけ目の肥えた男性がたくさんいることが証明
され、ぼくの持論もまんざらではなかったと気分を良くしたものである。
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