< 写真展のお知らせ >

  この展覧会は、この写真家の生誕100年を記念した大回顧展だが、大きな反響を
呼び各新聞の文化・美術欄の紹介は、「安井は、短い生涯で実に多様な主題や技法に
挑み、等しくにじみ出してくるものは生々しい現実感であり、また社会的な弱者に向
けられた共感の中からすくい上げられた現実は、レンズを通して洗練され、現在の私
たちの心にも直接響く」。 
                      
 「当時の報道写真が国家に統一されつつある中で、時代に縛られない誠実なまなざ
しが尊い。今や誰もが気軽に写真をとることができるが、この非凡なアマチュアの柔
軟さ、自由さは際立っている。」といった解説である。
「非凡なアマチュアはしばしばプロをしのぐ」といった観点が目立つ論旨もあった。
   
    

    

  

生誕百年 1903-1942 

安 井 仲 治

-写真のすべて-

  

恐怖    1938

燈台(海濱) 1936

蝶   1938

曲馬団(密着) 1940

窓(流民ユダヤ) 1941

夜   1940

     

        

< 松濤美術館  案内 >

安井仲治展  会期

平成2004年10月5日(火)〜11月21日(日)

   所 在 地        東京都渋谷区松濤2丁目14-14     TEL 03-3465-9421 
    
           (京王井の頭線 神泉駅下車−徒歩5分)
     
   開館時間  午前9時〜午後5時(入館は4時30分まで)
   休 館 日    月曜日
    
http://www.city.shibuya.tokyo.jp/est/museum/index.html

 

< 大先輩、安井さんのこと >
              
    
  ぼくは、この展覧会を拝見して、感無量。しばし、言葉も出なかった。
    
  わずか38歳までの短い人生で、これほどまでの果敢な仕事をなし遂げ、ま
 た人間として多くのすぐれた写真家を育て上げ、心から信頼を得た人物、人柄
 に頭が下がるばかりだった。
    
 ぼくは安井さんの作品をよく知らなかった。また世間の写真家、評論家の多くも
ほとんど知らなかった。安井さんが早逝し、しかも代表作の多くが戦災に遭い、消
失してしまっていたからである。
 それが今回の展覧会では、生誕百年を記念して関係者の大変な努力で探し集めた
ビンテ−ジ・プリント149点に、新発見、初公開の作品を加えて218点。図録
は作品と安井さんの書簡、講演会、その他の資料などで320ペ−ジという大変な
ボリュ−ムになっている。                   
    
 あの傲岸な土門拳が、日本の写真家では唯一安井さんには負けたと言った作品群
がそこにあった。安井さんは、新即物主義、構成写真、スナップ、ルポルタ−ジュ、
ソラリゼ−ション、シュールリアリズム、抽象表現、その他1920〜30年代に
出そろったすべてのスタイルを吟味し、そのいずれにもとらわれず、新興写真の黄
金時代を築いた。                          
 安井さんは、あらゆるものにカメラをむける広さと現実の断片の中から、強烈な
象徴性をつかみ出す深みを備えた作家であった。
     
 土門拳が「最も純粋な写真的マチエ−ルを追求した唯一の先覚者」、「最も鋭い
深いリアリズム写真」といつたことが、はじめてぼくにもよくわかった。
   
 でも、安井さんの全貌は、まだわれわれの前に現れはじめたばかりである。ぼく
は、このあたりからは落ち着いて、汲めどもつきぬ安井さんの魅力を見直して見た
いと思った。
 ぼくは、自分の作品の中に安井さんの多くの秀作を見ていなかったのに、モチー
フや構成に安井さんの作品とよく似たものがあるのに気がついた。それは安井さん
の没後の丹平写真倶楽部の中に安井イズムが色濃く残っており、その影響をぼくも
受けたのであろう。
 ぼくは今もなお、分厚い図録をめくりながら、ふと新しい発見をしている。皆さ
んもチャンスを作り、ぜひ見ておいてもらいたい展覧会である。
    

    
 ここから先は、個人的な余談である。
     
 ぼくが丹平写真倶楽部に入会したのは、1949年の秋、東京へ移住したのが、
1951年の秋であった。その2年間の丹平の例会やプライベ−トでのメンバ−の
話題には、実にひんぱんに「安井さんは、こう言った。ーーこうした。」といった
言葉がでてきた。 丁度ぼくが「瑛九が−−瑛九が−」というのと同様である。
          
 そんなことから、ぼくが何とか知りえた安井さんは、ぼくが入会するもう7年前
に38歳の若さで他界されたこの会のリ−ダ−で、全会員から非常に信頼され尊敬
された方だったらしい。ぼくより20歳上だったということくらいであった。
    
 それが2年後の丹平写真展で、鳥取砂丘で撮った<ヌ−ド>で「安井仲治賞」と
いうのをいただき、それが会の最高賞で入会2年の若造がキャリア10年以上の諸
先輩を出し抜いての受賞は、大事件なのだと聞かされても一向にピンと来なかった。
 それは、その頃ぼくが見かけた安井さんの作品は、わずか5点ばかりでそれも小
さな印刷物だけだったからである。
    
 ようやく、ぼくが知りえた写真家・安井像の輪郭は大阪ではなく、ぼくが東京に
出て編集者になり、土門さんの話を聞くようになってからであった。   
 この写真展を見るまで、ずっとあの5点ほどの作品しか知らず、大量のビンテ−
ジ・プリントもはじめてで、そのショックは冒頭で「しばし、言葉も出なかった」
となり、感無量とは、半世紀も前におそれおおくも「安井仲治賞」をいただきなが
ら、やっと今ごろ安井大先輩の業績と本質の全貌を知りえたということである。
    
 また、ぼくは安井賞をいただき、そのお蔭で丹平東京展に選ばれて出品できたこ
と、それがきっかけで写真家になった。ぼくは会場でそんな僥倖に恵まれた安井さ
んとの深い因縁をかみしめ、ほんとうにありがたく思った。(Part7参照)
    
 この展覧会は、多くの写真家、ジャ−ナリストが訪れ、深い感銘をうけたといわ
れるが、曲馬団、メ−デ−、猿回し、朝鮮集落などの密着プリントも展示され、原
画とその周辺の心理の変化、トリミングのあり方、ビンテ−ジ・プリントとニュ−
プリントとの違いなども興味深く見られている。
    
      
☆ 地方からの安井仲治展の図録入手は、一冊2800円の現金書留に、送料として切
  手450円を同封して松濤美術館宛に送付すれば購入できる。
  「安井仲治展図録1冊の購入希望」と「送付先住所、氏名、電話番号」を明記
  しておくこと。
   
   
☆ 次回 2005年1月8日〜3月6日 名古屋美術館にて開催予定