月例会先生評(2001年5月)

 
  月例会以前から感じていたことだが、諸君の写真を見ていると、講座で何度も言っ
てきたにもかかわらず、同じ間違いをしている写真があまりにも多い。次に問題点を
挙げる。
   
                       
☆ 《 ピントあわせは、自分の目で。目的にしたがって。》
      
  カメラのフレームを決めたら、そのままカメラまかせでのピント状態で、そのま
  まシャッターを切ったとしか思えない写真が多い。
       
  矢野昭子くんの「ベゴニア」など、あと少しで作品として成立しそうな例として
  取り上げたが、ピント合わせは曖昧である。センターにある主題の一枚のハナビ
  ラと黄色い花芯は、この画面の1/5を占めるに過ぎない。それだけにこの部分に
  は、確かなシャープさとグラデーションでの質感表現が絶対に欠かせない。にも
  かかわらず、ハナビラの前縁までの半分程はピンボケである。
  (この前ボケは、プロなら致命的なミスになり、世界に通用しない。)
       
  ピンボケ部分は、フォルムを曖昧にし、質感を損なう。少し大伸ばしをすると、
  ふやけたハナビラになりかねない。(学校では、固い金属板のピンボケ部分が柔
  らかいスチロールのように描写される実験を学生にやらせて来た)
  
  確かな質感は、確かな構成力とともに、作品の密度を挙げる必須の条件である。
  他の諸君のにも、該当するものが多い。これは基本中の基本、注意されたい。
    
  当分、まずオートでのピント合わせは止めて、マニュアルで何処から何処まで
  ピントが必要かを自分の目で確かめ、必要な絞り状態を確認しながら、撮影する
  ことだ。
 
          
☆《 もっと視野を広げること。もっと自分の個性で深くみること。》
    
  題材が限定され、物の見方も画一すぎる。もっと肩の力を抜いて自由に、好奇心
  を。
  これについては、講座の各編でぼくが述べてきたことや瑛九の世界などもう一度
  目を通してもらいたい。写真だけでなく他の分野にも好奇心を持てば、もっと気
  楽に展開できる。
 
         
★ 今回から「講座の感想を、長短にかかわらず、思うままに述べよ」と言ったのは
  これまでの講座で、どの程度諸君がわかっているものか、なぜ同じミスを繰り返
  すのか、また今後何が知りたいのかなどがよくわかると思ったからだ。
  (学校なら顔を合わせ、何時も話し合うので分かるが、この場所は何を考えてい
   るのか実にわかりにくい。本音など尚更分からない)
     
  諸君への回答はなるべくまとめて行うが、そのやりとりは他の人々にも講座の見
  方のアドバイスにもなろう。
    
  僕はこの講座で、ぼくが体験した50年のエッセンスを述べようとしている。 
  その中には、先人の選ばれた一語一句も多い。それらの理解には、ぼく達の仲間
  であったアーチスト達と激論を交わし実践もしたが分からないことも多かった。
      
  「言葉が終るところから始まる」と瑛九の言う、この世界は難しいが奥深く興味
  はつきない。
  この講座の意味を、繰り返し読んで理解し、ぜひ身につけてもらいたいとねがっ
  ている。
  でも、すぐ簡単にわからないのがあたりまえ、気にすることはない。つまり、ア
  ートには学力テストのような○×の答えは無い。創作・芸術の世界には、正解が
  ないからだ。あれこれトライし、考え、またトライし、そのうちに身体(五感)
  でわかるようになる。それも、写真の楽しみのひとつであろう。
     
           
◎ < 弟子互選について >
   
  今回の月例会の『弟子互選』を見ていると、一応よく選んでいる方だと思う。
  僕が今回注目したのは、基本的な問題を如実に含む未完の作品として、矢野昭子
  くんの「ベゴニア」を取り上げた。それについては講座に書いた。
    
  月例会で、それぞれの作品を評することは普通しないが、今回は初回ということ
  で、それぞれの人に一言づつ述べておく。
  今後は問題作のみに言及していきたい。全員に長いタイプを打つのは、ぼくの現
  況では日常の仕事と体力から無理である。もし、自分の作品について、詳しく聞
  きたいことがあれば、電話での応答に応じる。
  (ぼくの対応できる日時はゆきに聞いてもらいたい。電話でしゃべるのは、苦痛
   ではない)  
    
<西浦くん>「シャガ」  基本形のひとつなので、少し詳しく述べておく。   
  これは、いわゆる写真学校の「課題作」のよくできたものに近い。多くの諸君が
  選んだのはそのためだろう。つまり、黒バックで正確な花の構成とピント、ライ
  ティングで、二重丸といったところ。 
  ただ、恐らく諸君がもうひとつ物足りなく感じると思われるとすれば、これが図
  鑑的な写真を感じる内容にある。                       
                        
  これを脱するには、構成、ライティングをどうするか。そして、もっと強い作品
  に仕上げるために副材料はどうするか。例えばこの背景に尾瀬の山々が見えてい
  る条件に匹敵するほどのものにするにはどうするかなどと広告写真家の僕など何
  時も考えた。
  諸君ならどうするか。夫々の立場で百人百様のものが出来るだろう。
  ぼくの講座で言えば、その答の一例は、『私の花』の<カトレア>、<ポピー>
  などである。
    
  一般には角度によって花の大小をつけたり、ライティングによって、1つだけを
  より目立たせるなどの方法や、室内なら背景にトーンをつけるだけでも、もっと
  深みが出せる。
        
<梶山くん>「旅立ち」                           
  ピンぼけは避けるべきだ。このままではイラストに負ける。種にだけでもピント
  があっていれば、かなりの作品になった。
        
<阿部くん>「樹」
  なかではこれが力強くまとまっている。     
    
<森下くん>「シャコバサボテン」                      
  右を少しカットし、カメラ位置を数センチ慎重に移動するだけでも、もっと整理
  できてリズムのある構成になったろう。
         
<嶋尾くん>                                
  すべてそつなくまとめているので安心して見られる。その中でも諸君が「新緑」
  を選んだのは正解だ。ただ、意外性、新鮮味もほしい。これからの脱出が本格的
  な課題だ。
        
<矢野長広くん>                              
  今回の写真より、壁紙コーナーの写真の方がよい。壁紙を見ているとパターンを
  撮影するのが得意のようだが、その内容は、一般にはすべて4×5のカメラで撮る
  写真だ。35ミリ判カメラから引伸ばすと弱い。「天使のレストラン」という題
  名は問題だ。自由に作品を見れるような題名をつけること。
           
<矢野昭子くん>                              
  題材としては、副材料を含めての「カタバミ」が面白い。まとめる力が足りなく
  て写真になっていないのが残念。
     
<上田くん>                                
  今回の中では、モノクロの写真(「山桜」)が一番よかった。
            
<岡野くん>「花地蔵」                             
  もっと光が明快だと、ただのんびり楽しいだけでなく、よりキレがよくなっただ
  ろう。

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